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優秀賞
第37回 中学生の部

八王子城と豊かな自然 ~ 戦国時代の山城を歩む ~

丸山 慶和

東京都
明治大学付属中野八王子中学校
中学校2年生

全体説明

今回訪れたのは、僕が住んでいる八王子にある戦国時代に北条氏照が築いた山城、八王子城跡である。ここは日本百名城の一つで国史跡でもある。八王子城は標高四百四十六メートルの小高い山・城山の地形を活かして一五八七年頃から築城されたが、完成前に前田利家・上杉景勝軍に攻め入られ落城してしまった歴史がある。訪れたのは八月のとても暑い日だった。山の中に一歩踏み込むと、うっそうとした木々に囲まれ日なたと比べて気温がぐっと下がったように感じた。山の麓には、城山川が流れており、ひんやりした空気が流れていた。
古道と呼ばれる緩やかな上り坂を抜け、曳橋を通り御主殿跡に向かうと、山が開けて太陽の光が強く降り注いだ。川沿いを抜け登山道に入ると斜面が急になり本丸跡のある城山の頂上まで長い登り坂が続いた。途中、蝶をよく見かけた。八王子城跡は想像していた城と異なり、険しい山にある戦国の山城であった。

観察ポイントごとの説明

観察ポイント①
まず、御主殿跡に行こうと思い木々の生い茂る道を歩いていると、アブラゼミの「ジージー」という強烈な鳴き声が聴こえてきた。夏になると街中でもよく聞こえる声である。アブラゼミの名前の由来は油で揚げた時の音に似ているからと言われているそうだが、涼しい山道で聞くと、あまりうるさく感じなかった。

観察ポイント②
古道に向かう途中の城山川にかかる小さな橋の下では、小さな子供連れの家族が川遊びをしていた。網を持って魚か何かを採っているようだ。周囲を見廻すと橋のたもとの、やや薄暗い場所に数ミリの小さい紫色のつぼみを沢山つけた花が咲いていた。ヤブランである。山林ではよく見られる植物で、暑さ、寒さには強い植物のようだ。ヤブラシは他の場所でも時折見られた。

観察ポイント③
古道を歩いていると道沿いの山の斜面に青色の花をつけた植物がいくつも見えてきた。どこかで見覚えがある。調べたところツユクサであった。一見どこでも見る普通の雑草だが僕にとってはとても綺麗な花であった。日本古来の植物で諸説あるが、朝露を帯びながら朝咲く様子や、朝咲いて昼にしぼむ朝露のように、はかない様子から名付けられたそうだ。

観察ポイント④
ツユクサが咲いていた山の斜面の続きに赤い実が成っているのが見えて来た。ひと目見てわかるヘビイチゴだ。街中の公園や道端でもたまに見かけるが、山のヘビイチゴは緑の草に赤色が映えて不思議ときれいに見える。名前の由来は中国での呼び名の漢名「蛇苺(じゃも)」からきているなど諸説あるらしい。イチゴという名前がついているが、食べることはできないらしい。

観察ポイント⑤
城山川にかかる曳橋という当時を彷彿とさせる立派な橋を渡り、復元された御主殿跡にむかってみた。そこには一センチ程の白い花が二~六個暗で集合体となって咲いていた。ハナニラである。暑い日差しに負けない勢いで群生していた。山の植物を採取するのはいけないので、実際にニラの香りがするのかは確かめなかったが、触ったり切ったりするとニラの匂いがするようだ。

観察ポイント⑥
御主殿跡から下の道へ下りる途中、木の手すりに一匹のバッタが止まっていた。トノサマバッタとはやや違うような姿なので後で調べてみると、メスアハフキバッタという種類だった。フキバッタの仲間は主に山地に住み、羽が退化して飛べないものが多いらしい。しばらく観察していたが、じっとして木漏れ日を浴びながら休憩しているように見えた。

観察ポイント⑦
城山川の途中に御主殿の滝という小さな滝がある。滝が近くなると涼を求めているのか、モンシロチョウが数匹飛んでいるのが見えた。飛びながら、途中地面で羽を休ませているようなチョウもいる。モンシロチョウは春のイメージがあるが、八月も飛んでいる姿を見るのは意外だった。

観察ポイント⑧
途中、城山川の河原に立ち寄ってみた。緩やかな清流で、子どもたちが網を持って川に住む生き物を探していた。僕も浅瀬の石を幾つか裏返してみた。しばらく石を裏返しているとお目当てのサワガニがいた。他の子どもたちも数匹捕獲していた。小さい頃、サワガニを飼ったことがあるが、エサをあげることができずに数日で死なせてしまったことがある。ここで見つけたサワガニはすぐに川に戻すことにした。

観察ポイント⑨
元の道に戻り、しばらく歩いていると川沿いの岩場に二センチ程のカラフルな昆虫がいた。ハンミョウである。小さな虫なのに赤色・緑色・紺色で彩られた体がとても目立っていた。こちらの気配に気がつかないのか、逃げることなくじっとしていた。たまに公園などで見かけることもあるが、こんな近くで観察したのは初めてだった。

観察ポイント⑩
八王子城跡の入り口から本丸跡に向かう道に入った。いきなり急な上り坂である。先ほどまで歩いていた古道や城山川沿いとは全く異なる雰囲気だ。無我夢中になって登り続けていたが、途中一休みして周囲を眺めてみると、白い可愛らしい花をつけた植物があった。後で調べてみるとイチゲの花であることがわかった。山は目立つような花よりも小さくてもきれいな花が多いと思った。

観察ポイント⑪
城山を登り続け、八合目あたりのやや広い場所にアジサイの群生があった。ヤマアジサイである。花全体がこんもりとしたアジサイとは違い、薄い青色のガクに囲まれた真ん中に小さな花が集まっている。アジサイは梅雨の時期に咲いているイメージがあるが、八月の暑い日に山の中で見かけるとは思わなかった。

観察ポイント⑫
本丸跡まであと少しのところに北条氏照が城の守護神を祀った八王子神社があり、神社から頂上の本丸跡に向かう最後の坂を登っているとクロアゲハが飛んできた。ここまでくる途中も何度か見かけたが、山にはクロアゲハが良く飛んでいる。黒い羽に、赤い斑点があり鮮やかさを感じる。大きな黒い羽を優雅にあおぐように飛ぶ姿はとても美しい。ここまで登るのはとてもきつく汗だくになったが、キレイなクロアゲハを近くで観られたのはよかった。本丸跡の少し手前、木々の間から八王子の景色を一望できる場所があった。想像以上に高くて、こんなに登ったのかと清々しい気分になった。八王子城の跡に残されている豊かな自然を大切にしたいと思う。

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