応募期間

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受賞作品一覧
最優秀賞
第29回 高校生の部

次世代に残したい仁川渓谷の散歩道

山本紗椰

兵庫県
賢明女子学院高等学校
高校1年生

全体説明

私の祖父母の住宅地は、自然の山を切り開いて造成されたため、舗装された道路をはずれると、どこもそのままの自然が多く残されています。特筆すべき一番の所は、仁川渓谷の豊かな自然です。起伏にとんだ原始的な川で水勢はもちろん、大きな岩がゴロゴロたちはだかる上流の浸食谷から次第に岩の大きさが水にい削られ小さくなる下流の川へと見事に変貌します。途上には、幾つもの自然の渕ができ、崖壁から湧水が流れ落ちています。モリアオガエルを発見した時は、本当に嬉しかったです。クヌギや山桜等が構成する紅葉樹林は、山つつじやナナカマド等の植物が色を添え、どの季節も素晴しく美しいです。自然は刻々と時を伝え、湿原も至る所にあり、鳴き声を聞き、時にはしゃがんで目をこらすと様々な貴重な固有種を発見できます。民家の近くでこれ程多様な命と出会える散歩道はないです。守りたい大切な散歩道をご案内します。

観察ポイントごとの説明

ポイント1 家の近くの雑木林から甲山周辺までイノシシが出没します。祖父は、阪神淡路大震災で、山へ帰れなくなったイノシシが人里近くに住みついたと推測していました。仁川渓谷は、逆上ると六甲山まで続いています。山伝いに来たのかもしれません。夕方、犬と散歩する時、犬の後ろについてきたり、湿地で泥遊びをした跡やエサを探して土を掘った爪痕をよく見かけます。かわいいけど無責任にエサをあげないで欲しいです。

 

ポイント2 ピクニックセンターへの近道の丘の壁面で、土砂や泥が流れこんで堆積した地層が見られます。この周囲で拾う石は、縞があったり、濃い緑色をしていたりと美しく約300万年前、この辺りが巨大な湖だったことがうかがえます。石を拾う度に、はんみょうが私の前へ前へと飛んで行きます。「道しるべ」とあだ名のつく所以です。体長2センチメートル程の虹色の美しい甲虫は、道路に沿って人の行く先へ飛ぶ習性があります。

 

ポイント3 昔プラナリアがいた湿原と林をぬけ、ピクニックセンターが見渡せる崖に到着。眼下に滝を見おろし、目を上げると甲山が一望できます。暑い中にもほっとする瞬間です。林をぬける間中ウグイスが鳴いていました。何故か夏はヘタクソで、キョッキョッと鳴くだけです。スズメくらいの大きさで羽は灰緑色です。主に林の昆虫をエサにするので、梅にとまると思われているのは、羽がウグイス色のメジロではないかと思います。

 

ポイント4 ピクニックセンターの中の川の水を引いて「なかよし池」が観察池として設置されています。その辺りの杭で、じっとしているカナヘビを見つけました。カナヘビ科のトカゲです。形は、トカゲよりも長く尾も長いです。黄土色したかわいた全身は、恐竜の子孫を思わせます。今ではあまり見かけなくなったカナヘビも自然界の食物連鎖の中で役割があるはずです。私達は、小さい頃から自然を守る為に皆でゴミ拾いを続けています。

 

ポイント5 なかよし池をぐるっと回るとイトトンボやハグロトンボ等、重さを全く感じさせないトンボがふわふわ飛んでいる姿とよく出会います。イトトンボの種類は、皆小形で、体は細く、静止時は翅を背上で合わせるのが特徴です。池沼の草むらに多く見られました。時がとまった様に飛ぶ姿は、妖精の国の使者を思わせ、細い身体が虹色に輝いて美しかったです。同じトンボでも他の種と異なる習性に生き物の多様性を実感しました。

 

ポイント6 なかよし池から林をぬけ道路に出て、橋から川を見おろすとオニヤンマが横を走りぬけました。とまった所をつかまえようとしましたが、素早く逃げてしまいました。オニヤンマは、ある決まったコースを往復して飛ぶ習性があるので、そのコースに虫網をかまえている方がつかまえ易いです。羽を広げ大きい物は10センチメートルにもなる堂堂とした身体をしています。腹の色が黒と黄色の縞々ではっきりしているのですぐわかります。

 

ポイント7 橋を渡ると目の前に、五ヶ池から流れこむ小さな滝が目に入ります。周囲に側溝があり、そこでサワガニを見つけました。川にもいますが、ここの方が観察し易いです。甲は丸みのある四角形で、幅約2.5センチメートルで灰褐色のものもいれば、赤味がかったオレンジ色もいます。小さい身体を素早く岩かげにかくすので、川ではつかまえにくいです。ハサミにエサをはさんで上手に食べる姿は、行儀がよくて感心しました。

 

ポイント8 さらに上流へ行くと、険しくなり、水質もぐっと良くなります。崖の側面から湧水が小さな滝となり、雨で侵食された淵でモリアオガエルを発見し、感動しました。このカエル、樹上にすみ、水辺の樹枝上に泡状の卵塊を産みつけふ化したおたまじゃくしは下の水中に落下して育ちますが、その後旅に出て、鮭の様に産まれた川へ帰る不思議な習性があります。兵庫絶滅危惧種のBランク種です。川の環境含め、守って行きたいです。

 

ポイント9 甲山に近い湿原でサラサヤンマを発見しました。サラサヤンマは、モリアオガエルと同じく兵庫絶滅危惧種のBランク種です。ヤンマ科ではもっとも小さく、腹部の胴体にあるサラサ紋様が美しいです。又、この辺りの湿原には、兵庫絶滅危惧種Cランク種のノハナショウブがあります。多種のハナショウブの園芸種の原種で野外ではなかなか見られません。トンボも13種類観察されています。湿原も豊かな植生に一役かってます。

 

ポイント10 橋よりも少し上流の岩の上をモズクガ二が歩いているのを発見。この辺りから川の水量が豊かになり、淵が至る所で見られるようになります。イワガニ科のカニで、幅約6センチメートル。川に住むカニでは大きいと思います。はさみに長い軟毛が密生し、とてもユニークです。河口からかなり上流まで登るそうですが、私は、上流でしか見たことがありません。生息が確認できたら、持ち帰らず、そっと元へ帰して欲しいです。

 

ポイント11 ピクニックセンター内の川は、大雨による侵食で流れを自在に変えます。時には野原を飲み込み一面水で覆われますが、小石の多い土壌が雨水をろ過するので、川はいつも澄んでいます。清流や湿地にしか自生しないクレソンが自生している事からもわかります。川には、オイカワやハヤの子どもが泳いでいて、つかまえようとするとすばしっこく逃げてしまいます。川の水は意外と冷たく、思っているより深いので注意がいります。

 

ポイント12 五ヶ池の裏山では、アケビや山ブドウ等、目に見えて楽しい山野草に出会えます。狭い面積に大きな岩が自然に積み上がり、アップダウンの激しいうねりが小刻みに続く面白い散歩道です。この辺りの岩は、大きな花崗岩が節理面にそって風化が進んで割れ、まわりの部分がすっかりなくなってしまった岩だそうです。仁川渓谷を囲んで大きな岩が積み上げられた古墳が三基あったのも、花崗岩が豊富にあったからかも知れません。

 

ポイント13 ピクニックセンターを囲む林で茂みをカサカサ歩くメスのキジを発見しました。イノシシが姿をひそめる林でもあります。人の手が入らない林は、雑草も私の背の高さ程伸びるので、軍手をはめ、夏でも長袖長ズボンで散歩します。今は見つけられませんが数年前に玉虫の死骸を発見しました。夜にはモスラーの様な大きなガも飛んでいます。人間にとっての害虫も自然界には存在しません。「共生」が私のライフワークです。

 

ポイント14 テニスコートの近くの林では、セミに沢山出会えます。セミは一日の中でも種によって鳴く時刻が違います。ニイニイゼミは夕方から夜、ツクツクボウシは、朝と夕方の二回、ヒグラシは、早朝と夕方。それぞれが時間帯をずらすことで、自分の声を届きやすくしている様です。私はヒグラシの鳴き声が一番好きです。好んで夕刻に鳴くからこの名前がついたそうです。「カンナカンナ」と響くヒグラシの声は、涼を運んでくれます。

 

ポイント15 テニスコートと道をはさんで反対側は、ドングリの垣根が続きます。台風で倒れたのか、朽ちた木の裏側をのぞいてみるとオスのヒラタクワガタを見つけました。山にはコクワガタ、ノコギリクワガタもいますが、夜行性で樹液に集まる為、ワナをしかけないと中々お目にかかれません。ヒラタクワガタは気が荒く、小さな子供には扱いにくい虫と思います。ドングリの木は、カナブンやオトシブミを育み、木陰を与えてくれます。

 

ポイント16 通称ドングリ山と呼ばれる自然公園は、大きな岩を積み上げた古墳を囲む様に作られています。シバ栗の木やドングリの木が自生し、夏と秋に荻の花が暑さに応じて色の濃淡を変えて咲きます。ドングリ山は小さいですが、阪神競馬場を見おろし、夜は生駒山のドライブウェーまで見えて、おもちゃのジオラマの世界に入った様な楽しさがあります。祖父がドングリの木にはりついているカブト虫のメスを見つけてくれました。

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