淡島の自然観察路
渡辺愛友子
東京都
お茶の水女子大学附属高等学校
高校1年生
全体説明
淡島は、静岡県沼津市にある小さな無人島です。無人島とは言っても、ホテルとマリンパークがあり、渡し船が運行しています。私は今年の春に初めて淡島を訪れ、自然の豊かさと美しい景観に感動し、今回この地図の作成のために再訪しました。
淡島を流れる時間はとても穏やかです。島の遊歩道を一周する間にも、様々な生き物に出会えました。鮮やかな色をした、妖精のようなアサギマダラ。悠々と鳴き交わしながら空を飛ぶ、迫力満点のトンビやウミネコ。淡島では、昆虫の採取ができません。淡島が生き物たちの命に溢れている理由、それは、島全体が、自然を愛し自然と共に在る人々の思いを一杯に湛えているからでしょう。淡島の小さな生命たちは、それぞれに最大限の輝きを放っています。忙しない都会の多くの生命とは対照的です。私たちにできることは何か。この島の空気に触れ、考えされられます。
さあ、生命の島・淡島へ、冒険に出かけましょう!
観察ポイントごとの説明
<1>マリンパーク前の桟橋付近、大きなウミウやサギが見られるポイントです。ウミウが羽を広げて乾かす姿や、立派なアオサギが悠然と飛ぶ姿が印象的でした。七十種類を超える野鳥が記録されているという淡島でも、圧倒的な存在感を放つ、体の大きな王者のような鳥。それが彼らです。海に作られた生簀も、1羽のウミウが降り立って羽を広げた瞬間、彼のためだけの特別な舞台に変身しました。とても印象に残っています。
<2>アサギマダラやセミ(クマゼミ、アブラゼミ)が見られました。渡り蝶であるアサギマダラは、春から夏にかけて南から北へ、秋には北から南へと旅をし、この渡りの途中で淡島にも立ち寄ります。神秘的な美しさを持つアサギマダラ。私の出会った個体は、島の緑の中、一瞬の眩しい生命に強烈なまでの光を放っているようでした。
<3>淡島ホテルへ続く小道の入り口付近に、トベラやユリなどの美しい花々が見られます。5月に訪れた際は、トベラのかぐわしい香りが楽しめました。トベラは、その葉を傷つけると独特な香りがするために、一部の地域では魔除けとして使われてきました。節分に邪気を寄せ付けないため玄関先に飾っていたことから、扉の木→トベラと呼ばれるようになったという説もあります。
<4>淡島遊歩トンエルを出ると、一気に視界が開け、眼前に海が広がります。出口付近にクズの群生が見られます。大きな葉を茂らせ、他の植物を枯らしてしまう厄介者とされていますが、そんな彼らも、光のないところでは生きられません。全面が海に囲まれ、日光に恵まれた淡島だからこそ、彼らも思う存分生い茂ることができるのでしょう。雑草ではなく植物として光の中を這い登るクズは、なんだか嬉しそうに見えました。
<5>生命の宝庫である磯は、不思議な生物たちの隠れ家です。ヒザラガイは、三葉虫のようにも見える風変わりな外見の持ち主です。岩の上でたくさん見つけることが出来ました。大きな波にも、人間の存在にも動じず、ただ無言で岩に潜む様子を見ると、彼らがそこに三葉虫の時代からずっと張り付いているかのような錯覚を覚え、自分の小ささを実感します。磯のスープの波間を漂う生きたヒジキは、どこか不気味な雰囲気に包まれています。
<6>海の中に看板が立っているのを見つけ、そばへ寄って見てみると、マガキの説明が載っていました。マガキは体外受精によって受精卵となった後、24時間後には繊毛を使って自由に泳ぎ回れるようになり、小型の植物プランクトンを栄養に数週間漂ったあと、残りの一生を過ごすことになる場所を探し始めます。美しい淡島の海に安住の地を定める彼らには、どんな世界が見えているのでしょうか。想像するとロマンがあります。
<7>カモメ(ウミネコ)が岩礁で羽を休めていました。人の姿を見てもさほど恐れることなく、悠然とした様子です。それから、頭を反らせて嘴を開きました。今から鳴くのか? ウミネコは、特徴的なミャーミャーという鳴き声からその名がついたと言われます。さぞ可愛らしい歌声が聴けるだろうと思っていたら…「ゲェェェ」クールな表情とのギャップに、思わず笑ってしまいました。ごめんね…
<8>海に向かい、大きく口を開けて咆哮する獅子。迫力満点の王者の正体は、実は自然の岩です。縄文海進の際の波の力で削られたといいます。獅子岩と呼ばれるこの岩の付近では、残念ながら生き物に出会うことが出来ませんでした。参考資料によると、このあたりの海にはハナタテサンゴやイボヤギといったサンゴの仲間が生息しているそうです。私もいつか美しい淡島の海に潜り、不思議で神秘的なサンゴの生態をこの目で見てみたいです。
<9>獅子岩からしばらく進むと橋があります。この橋を渡り、獅子岩の方面の海中を見ると、大きな魚群が見えました。イサキの群れだと思われます。他とは比較にならない、俊敏でしなやかな動きはまるで訓練を積んだアスリートのよう。この辺りは水深も深いので、大型の魚の住処になっているようです。本の中のダークヒーローを彷彿とさせる、迫力満点のハンターの群れ。静かで研ぎ澄まされた彼らの雰囲気に魅了されました。
<10>淡島の東端です。遊歩道から付近の海を覗くと、鮮やかな青色をしたスズメダイの群れが幾群も見られました。この辺りは熱帯魚や海生生物たちの格好の隠れ家。水面に映える数えきれない青い影は、まるで印象派の絵画のようです。遊歩道の影に集まり、ささやき合っているような小さな魚たち。思わす話し合いに加わりたくなります。しかし、沖縄などの亜熱帯でもない淡島で熱帯魚が見られるのは不思議です。実際東京湾では、数十年前までいなかった熱帯魚やサンゴがその数を増やしていると言います。淡島の緯度は東京湾より3度ほど下で、熱帯魚の存在が温暖化の原因であると言い切ることは出来ませんが、美しい海が気候変動で作られたかもしれないと思うと、考えさせられます。環境を、ただ守ること、変化させないことだけが大切なのか。環境の変化によって生き方を変えざるを得なかった生命についても、私たちは責任を取らなくてはならないと思います。
参考資料:「淡島物語」