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受賞作品一覧
優秀賞
第35回 高校生の部

どうめきと僕の11年間 ~きのこ・変形菌編~

黒﨑 裕貴

和歌山県
和歌山県立田辺高等学校
高校2年生

全体説明

どうめきは和歌山県田辺市にあり、吉野熊野国立公園に指定されている。どうめきはひき岩とも呼ばれて、裸の岩山がヒキガエルに見えたことに由来する。市街地から車で15分程度の身近な場所である。ここには国民休養地としてふるさと自然公園センターがあり、どうめきや田辺市の生き物・地形を紹介している。針葉樹のアカマツや、ウバメガシ、シイ、カシなどの常緑低木、高木で森林が形成されているが、岩が露出しているところがあり、そこには水が流れてコモウセンゴケやモウセンゴケなどの湿地の植物が生育している。
森林だけでなく、池や湿地、崖など色々な環境があり、幅広い生き物と出会うことができる。ふるさと自然公園センターは、どうめきを含め様々な場所で月に一度自然観察会を行っている。僕は小学校の頃からよく監査会に参加したり、この場所に遊びに来た。その中で僕が特に興味を持つようになったキノコと変形菌を紹介したい。

観察ポイントごとの説明

(観察ポイント①『まずは、キノコから』)
ふるさと自然公園からではなく、多目的広場の駐車場から僕の旅が始まる。多目的広場は芝生になっていて、オオシロカラカサタケと出会うことができる。近くのサクラの木の根元には、コフキサルノコシカケが顔をのぞかせている。これから続く長い上り坂への準備運動のついでにキノコを探す。

(観察ポイント②『キノコストリート』)
山頂への登り道は尾根になっていて、頂上までに大きな上り坂が2つある。まずは1つ目の坂から。ここには、コテングタケモドキやテングタケ、ヘビキノコモドキなどのシイ・カシ林に多いテングタケ科のキノコがよくいる。尾根から谷を見下ろすと、全身真っ白いドクツルタケが目を引く。ドクツルタケは人が死ぬほどの猛毒なので、食べることができない。せっかく見つけたのに、残念だ。

(観察ポイント③『ほっと一息』)
1つ目の坂を上りきると平たんな道が続く。ここには、シロハツモドキやツチカブリなどのベニタケ科の白いキノコが出迎えてくれる。白色の次は、赤色のドクベニタケやニオイコベニタケが現れる。頂上へ向かう道は、ウバメガシが多い。質の良い紀州備長炭に加工されるのが、このウバメガシだ。

(観察ポイント④『カラフルなイグチ』)
2つ目の上り坂は、イグチの仲間が多い。黄色のキイロイグチと橙色のダイダイイグチは少しでも傷つくと、あっという間に青く変色する。赤色のベニイグチ、紫色のブドウニガイグチ、傘の表面は地味な茶色だが、ヒダが鮮やかな黄色のヌメリコウジタケなど、色取り取りのイグチを楽しみながら坂道を歩く。

(観察ポイント⑤『スギ林』)
頂上を過ぎると、ウバメガシの林からスギ林に代わる。僕が小学生だった6年ほど前までは、木の階段のところにボタンイボタケと紺色のキノコが生えていた。しかし最近見かけない。あの紺色のキノコは一体何という名前だったのか。今となってはその時の写真しか残っていない。

(観察ポイント⑥『崖からこんにちは』)
これも6年ほど前まで、毎年キクバナイグチが崖からにゅっと顔を出していた。しかしここ数年出会わない。ボタンイボタケや紺色のキノコ、キクバナイグチのように、キノコにも植物相のような遷移があるのだろうか。それともほかの原因なのか。

(観察ポイント⑦『唯一のケホコリの仲間』)
スギ林を過ぎると倒木置き場がある。ここは、僕が唯一どうめきで変形菌のケホコリの仲間を確認した場所である。ここ以外のどうめき変形菌スポットでは、ムラサキホコリの仲間やモジホコリの仲間、ウツボホコリの仲間は確認したが、ケホコリの仲間は確認できなかった。ここの倒木は、普通の倒木よりクロコブタケの仲間が多く付いているように思う。何か関係があるのだろうか。

(観察ポイント⑧『ムラサキホコリならここ』)
ここには、3本ほどの倒木がある。たいていここにムラサキホコリの仲間がいる。しかし、僕が行くといつも未熟か古いものが多い。いい状態のムラサキホコリの仲間を見たのは1回だけだ。またここでは、ムラサキホコリの仲間以外見たことがない。なぜだろうか。

(観察ポイント⑨『材木置き場』)
この材木置き場は、どうめきで最も多くの材木が置かれている。ここの材木はウメが中心である。僕はここでアミスギタケやオオゴムタケ、カワラタケ、ヒイロタケ、ヒトヨタケ、アカキツネガサなどの腐生菌のキノコを確認した。しかし、変形菌のいそうな倒木があるにも関わらず、変形菌を見つけることができなかった。ウメの木には、変形菌のエサとなるバクテリアが少ないのだろうか。

(観察ポイント⑩『サンコタケの街路樹』)
道路のわきに竹林があり、道と竹林との境目にサンコタケが発生する。まるで街路樹のようである。サンコタケは、臭いにおいを出し、集まってきたハエに胞子を運んでもらう。僕のようなキノコ好きにはたまらないが、このあたりに住んでいる人たちは、悪臭に苦しんでいるだろう。

(観察ポイント⑪『変形菌の休憩』)
 ふるさと自然公園センターの裏にある材木置き場で休憩する。ここの倒木は直径2センチ程度の細いものが多く、ムラサキホコリの仲間や黄色い綿菓子のようなホソエノヌカホコリなど普通種がいる。ここから先、変形菌のスポットが続くので、一息ついて次に備える。

(観察ポイント⑫『冬の味覚エノキタケ』)
エノキタケは、冬の数少ない食用キノコの一つだ。今年ここでエノキタケを採集した。天然のエノキタケは、栽培のものとは見かけも味も全く違った。天然物はぬめりがあって、はるかにおいしかった。今年の冬もここでエノキタケに出会えたらいいな。

(観察ポイント⑬『粘菌と出会いたいなら、ここ』)
ほかの場所に変形菌がいなくても、ここに来れば何かしらいる。ツノホコリやウツボホコリ、シロウツボホコリ、キウツボホコリ、アオモジホコリ、ムラサキホコリの仲間、エツキクダホコリ、アミホコリの仲間などがいる。この場所で大発生したアカモジホコリと出会った時は、思わず声を上げた。ここには、切られて間もない木から腐ってぼろぼろの木まで幅広い倒木がある。アカモジホコリは、捨てられてまだ間もない木に生えていた。そのため木が固く採集するのに苦労した。
一方アミホコリの仲間は、腐って樹皮がはがれてぼろぼろになった木に多かった。ツノホコリやアオモジホコリ、ムラサキホコリの仲間は、中の材がある程度腐って少し柔らかくなっているが樹皮が落ちていない倒木に生えていた。変形菌には、種類によって好きな木があるのではないかと考える。ここは、どうめきの中で最も変形菌の種類が多く探しやすい場所である。

(観察ポイント⑭『変形菌の谷』)
この谷の底には、倒木や落枝が一面に散らばっている。1つ前の倒木置き場とまではいかないが、マメホコリやアオモジホコリ、ウツボホコリ、シロウツボホコリ、キウツボホコリ、シロジクモジホコリ、スミスムラサキホコリ、ムラサキホコリの仲間など多くの種類の変形菌がいる。
いつもここで30分ほど変形菌を探して、キノコと変形菌を探す僕の旅は終わる。

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