ともに生きる散歩道
福永 葵
兵庫県
賢明女子学院高等学校
小学校1年生
全体説明
私の見つけた観察路は全く特別なものではない。そこにいる生き物も植物だってこれといって珍しくはない、言ってしまえばどこにでもいるようなものばかりだ。ではどうしてこの道を選んだのだという話だが、それはこの道が私の知りえる中で最も自然を身近に感じられるものだったからだ。この道は私の慣れ親しんだ最寄り駅への通学路、そしてその最寄り駅から毎朝眺めていた未踏の地である川べりへの道からできている。よく知った場所の新たな「自然」という観点から見る顔とずっと憧れていた場所のはじめて知る顔。人と共存している自然の強い生命力を感じられるこの観察路はきっとどんな人の側にも存在しているはずだ。日常せかせかと通り過ぎているそこにもすばらしい自然美があることをこの観察路は気付かせてくれた。たまにはゆっくり歩いてみるとたくさんの自然が私に語りかける声が聞こえてきた。
観察ポイントごとの説明
①近所の空き地
うっそうと繁る緑の中ではたくさんの鳥が何やら必死についばんでいる。それが何なのかははっきりとは分からない。植物の種子であろうか。ヤマバトのつがいやスズメといった一般的なものから、カワガラス、セグロセキレイといったなかなかレアなものまで仲睦まじく何かをつついている。私はここを「鳥のホテルバイキング」と呼んでいる。中でも私のお気に入りはセグロセキレイだ。
②駐車場の溝
あまり使われていない駐車場の側溝。そこに元気一杯の黄緑色のスギナがきれいに横一列で生えている。春には同じ場所にツクシが並んでいて、その成長を見るのが私の日課である。溝はいつもうっすらと水がひかれていて、小さな可愛らしいサワガニが横歩きをしている。いつも急いでいるのか、せわしないその動きはどんな人も笑顔にしてくれるだろう。
③軒下
家の軒下にはツバメの巣のあとがある。そんなに天井が高くないので、いつも空高く飛ぶツバメを近くで見ることができた、もちろんヒナも!春の訪れを一番実感させてくれる出会いは子育ての中のツバメとの出会い。今はヒナも立派になって巣立って空き家と化しているが来春またちがう住居者が入居すると思うと待ち遠しい。
④水路
実はここが私の一番のおすすめスポットなのだ。すばらしい生物多様性を感じられるこの場所は踏み切り横のとても狭い水路。水の中には流れがなく住み良いのか、えびやらタニシやら小魚やらがたくさんいる。そしてそういった生き物をねらって立派な白鷺がこんな小さな水路でにやってくる。その姿はどこか滑稽である。ガマの穂の先には美しいオニヤンマがちょこんと羽を休めていた。
⑤線路沿いの駐車場
なつかしいものを見つけた。オシロイバナ。誰もが一度はその実を使ってお化粧ごっこをしたことがあるのではないだろうか。すっかりその存在を忘れていたがこんなに近くにあったとは。その実を手の平にのせて幼い頃をまぶたにしばらく映していた。他にもヘクソカズラやエノコログサといった懐しい植物が肩べていた。幼かった日々を思い出させてくれるここを「タイムマシンゾーン」と呼ぼう。
⑥線路沿いの林
「林」というより「ジャングル」という方がぴったりのような気がするこの場所。青に近い緑が一面に広がる中に小さな白い点がいくつもある。ヒメジョオンだ。雑草の一種ではあるが私はこの花が好きだ。控えめに咲く姿が何とも愛らくし感じられるのだ。その下にはヘビイチゴがはうように生えていた。緑と白のコントラストが絶妙なそこは夏の日射しに負けないほど生命力にあふれていた。
⑦河原への階段
いよいよ河原と下りる。川の水量はこの前の台風によってかなり増していた。足もとに目をやると草の葉にしがみつくセミのぬけがら。セミのぬけがらを見るのは小学校以来かもしれない。そのすぐ隣にはひっそりとさくオニアザミの姿が。見ているだけで痛そうな鋭いトゲの上には美しい赤紫色の花弁が手を広げていた。美しいものにはとげがあるというのは本当のことらしい。
⑧河原のはらっぱ
春に咲きほこっていた花は皆散ってしまいギザギザとした葉だけが残っているソメイヨシノの木の下に広がるシロツメクサの白い花。昔、夏に母からシロツメクサで冠を作る方法を教えてもらった。一面がまっしろになるよど生えていたわけではないがまばらに点在する白のじゅうたんがどこか涼やかに私には見えた。
⑨川の橋の下
川の橋の下にいると上を通る車の音がダイレクトに耳に伝わってくる。せわしなく車が行き交う上とは時間の流れがちがうかのようにここは静けさの中ゆったりと時が過ぎていく。先程とはちがうピンクのじゅうたんがあちこちにあったので近くで見てみるとピンクのシロツメクサだった。帰宅後すぐに調べてみるとモモイロシロツメクサと言うらしい。どちらも品の良いきれいな色をした花であった。
⑩川の中州
ここがこの散歩道のゴールとなる。川のまん中にあるそこは一面が葦で茶色である。上空ではトンビが大きく円を描いている。そのすぐ近くには二羽の白鷺がその翼で風を切って飛んでいる。その光景はとても荘厳で河原に立つ私はただ無言で空を見上げていた。すぐそこでは車や電車が通り人が普通に生活していて、上空では大鳥が舞い、水中にはまた別の生物が。共存の意味を知るゴールだった。