園芸高等学校生物マップ
山田 りさ
大阪府
大阪府立園芸高等学校
高校3年生
全体説明
観察路の説明
大阪府立園芸高等学校は敷地面積が12,000m2もある農業高校であり、今年で創立100周年を迎えます。都市部にある農業高校のためあまり生物も生息していないと思われます。しかし、様々な植物が植栽されているため、生物の楽園になっています。特に実習庭園は10,000m2もあり、常緑針葉樹、常緑広葉樹、落葉針葉樹、落葉広葉樹がたくさん植栽されています。これらの樹木は本校の所在する池田市細河地区の植木産地や兵庫県宝塚市山本地区の植木産地に在住されている卒業生から寄贈していただいた木がかなりあります。これらの木の中には大きく育ち、胸高直径が1m前後のも数本あります。さらにこの庭園は池泉回遊式庭園であり、庭園の中央部には池が造られており、水生生物も生息しており水鳥も飛来しています。また、校内には江原川という川も流れています。一方国道171号線が敷地を横切っています。自動車の排気ガス対策のために国道に沿ってグリーンベルトが造られました。
観察ポイントごとの説明
①通学路のスミレ
阪急石橋駅徒歩15分で園芸高校に到着しますが、園芸高校の近くの道路沿いにスミレが生えています。道路に沿って並べられた鉢に水を撒かれるため、スミレの種子が発芽しました。4月になると紫色のきれいな花を咲かせます。花後、莢が弾け、種子が広がっていきます。莢を採取し、種子を取り出し播種して苗を作り、猪名川の河川敷に植栽する予定です。平成28年の春にはスミレの花咲く猪名川を見ることができると思われます。
②ジャコウアゲハ
正門に入ってすぐ左に作ったトレリスにウマノスズクサが植えており、これを食べるジャコウアゲハが飛来・産卵に訪れます。幼虫は旺盛な食欲でウマノスズクサを食い尽くし、蛹から成虫になってとんでいくというステージを見ることができます。本校ではウマノスズクサ植栽後すぐにジャコウアゲハが飛来しましたが、城山高校では9年もかかりました。生物復元も難しさを示す事例の一つであると思われます。
③実習庭園のタンポポ
10000m2の実習庭園は中央部に池と芝生広場が設置され、周辺部に樹木を植栽する池泉回遊式庭園である。北側には常緑樹南側には落葉樹を植栽している。
芝生公園には毎年春になると関西タンポポがたくさん咲きます。近年、関西タンポポを含む在来タンポポが減少し、西洋タンポポが増加していますが、この場所には西洋タンポポが侵入することができません。庭園の周辺部に植栽された樹木がバリア機能を果たしているのかもしれません。
④野菜畑のタンポポとオオバコ
実習庭園の西入口は野菜畑に接しています。ここのタンポポは実習庭園のタンポポとは違い総苞片が反り返っている西洋タンポポです。この場所は農場技師さんによって何度も草刈りされます。そのため西洋タンポポが繁殖しています。つまり攪乱が大きいことがこのタンポポの生存につながっています。
また、この場所は通路としても利用されているため、踏圧に強いオオバコが生えています。
⑤カシノナガキクイムシ
池田市にある五月山と待兼山、箕面山に発生していたカシノナガキクイムシ(以後カシナガと呼ぶ)がついに平成26年実習庭園のナラガシワ3本、アベマキ1本、コナラ1本、ウバメガシ1本に発生しました。園芸高校から最も近い待兼山でさえ自転車で15分もかかるため、まさかカシナガが発生するとは思いませんでした。
ただ、ナラガシワは大阪市立長居植物園や摂南大学薬草園でも発生しており、カシナガの影響を受けやすい樹種であると思われる。
この害虫を防除するため幹に布製ガムテープを巻いて穿孔から出てくるカシナガを捕獲しています。
⑥アメリカザリガニ
本校が現大阪府立池田高校から移転するにあたり農地を捜されたそうであるが、適当な之うちが見つからず、仕方なく湿田であった現在の場所を購入することになった。庭園を造るために樹木を植栽するには盛土をしないと根腐れをおこしてしまう恐れがあった。そこで、当時の生徒が庭園の中央部に人力つまりスコップで池を掘り、もっこと呼ばれる入れ物で池の周囲を盛土をされたそうです。
この池に誰かがアメリカザリガニを放流し、大繁殖した。本種は日本の侵略的外来生物に指定されている。そこで、私達ビオトープの生徒が2年間で6000匹も捕獲したが、翌年には捕獲前と同様に増加した。アメリカザリガニの生命力の強さに脱帽させられた。
⑦クワガタムシ
カシナガの防除のためにガムテープトラップを設置していますが、この中にクワガタムシが侵入していることがあります。コクワガタだけと思っていましたが、チビクワガタやヒラタクワガタも確認できました。クワガタムシがもっと増えるようにコナラ、クヌギのドングリを待兼山から取ってきて苗を作り、庭園内に植栽する予定である。
⑧コイ
同じクラスのビオトープ部部員の父親が猪名川でコイ3匹を釣って来られ、池の中に放してもらった。アメリカザリガニの繁殖を止めるために以前から依頼していた。これらが産卵し、20匹以上に増加しました。
コイがアメリカザリガニを少しでも食べてくれたらと期待していたが、期待以上に捕獲しヒメガマが植わっている場所にわずかしか生息しないほどアメリカザリガニの生息密度が低下しました。
なお、スジエビはたも網で捕獲できるので、コイは選択的にアメリカザリガニを捕食していると思われます。
⑨ムラサキシジミ
実習庭園にはクヌギ、コナラ、アベマキ、ナラガシワ、ウバメガシ、アラカシ、シラカシ、シリブカガシ、スダジイなどのブナ科樹木が多く植栽されています。これらの木の葉を食べるムラサキシジミが1970年に生物部(現在廃部)によって確認されています。今年も確認されているので、最低でも45年間世代交代が行われていると思われます。
⑩カブトムシ
実習庭園には多くの常緑広葉樹が植栽されています。この落ち葉を毎年秋から冬に積んで腐葉土を作っています。フゴという袋に落ち葉を入れていますが、1年後の秋にひっくり返すと、幼虫がたくさん取れます。この幼虫を箕面昆虫館、みのお山麓保全委員会と提携して小学生に無料配布しています。
落ち葉だけを積んでもいいのですが、これに池田グリーンリサイクルという会社からいただいた剪定枝を用いた木材チップと落ち葉をブレンドします。さらに木の枝を入れておくと空隙ができ、木の回りに幼虫がたくさん生息しています。
⑪オオスズメバチ
カシナガが樹木に穿孔すると、侵入を阻止するため樹液を出してカシナガを水攻めにして殺します。若い木は樹液をたくさん出すのでカシナガが侵入しても枯れることはありません。老木は樹液をあまり出さないため、木が枯れてしまいます。
本校のウバメガシにもカシナガが穿孔しましたが、樹液をたくさん出していました。これにオオスズメバチが飛来・吸蜜していました。
このスズメバチの巣をクラブ員総出で探し回りましたが、見つかりません。土の中に巣を作るため、見つけられなかったと思いました。しかし、スズメバチを追跡するとプラタナスの木の洞に巣を作っていました。昨年の8月~9月にかけて池田市では集中豪雨が度々ありました。そのため土の中に作られた巣が水に浸かりしかたなく洞に移動したのではないかと思います。
今年になるとウバメガシにフラスと言われるオガクズと糞が混ざったものが大量に発生し、樹液は出なくなっていました。
⑫グリーンベルトとクロコノマチョウ
本校は全国でも珍しい学校の敷地内に国道(R171)が横断している学校です。自動車の排気ガスをできるだけ校内に入らないようにアラカシ、シラカシ、クスノキを混植したグリーンベルトを造っています。樹木が成長し林床が暗くなりと、クロコノマチョウが生息するようになりました。
また、ここの落ち葉を集めてフゴに積んでおくと、カブトムシが産卵に訪れるようになりました。実習庭園では羽化したてのカブトムシをカラスが捕食してしまうことが度々あり、カブトムシの残骸が庭園内に散乱していました。しかし、グリーンベルトはカラスが飛来することは少なく、カブトムシが無事に羽化できていると思われます。
⑬苗木生産温室とエノキ
環境緑化科の苗木生産温室ではバタフライガーデンに植栽する植物である食餌植物(幼虫が食べる植物)と吸蜜植物(成虫が蜜を吸う植物)を栽培します。これらの植物を用いてバタフライガーデンを各地に造っています。主なバタフライガーデンとしては梅田スカイビル、茨木市彩都西公園、伊丹市笹原公園、大阪狭山市狭山池公園、箕面市箕面森町、箕面昆虫館、妙見の森があります。
温室にはアゲハチョウ、ツマグロヒョウモン、モンシロチョウ、ジャコウアゲハ等が産卵に訪れことも度々あり、幼虫を見ることも出来ます。
現在70種類以上の植物を栽培しており、苗の配布も行っています。また、チョウハッピーな庭づくりという報告書も作成し、配布しています。
また、温室の前の川沿いにエノキの木が植栽されています。この木はテングチョウ、ヒオドシチョウ、ゴマダラチョウの食餌植物です。実習庭園内にもエノキが植栽されており、これらの木によってこれらの蝶が生息しています。
⑭バタフライガーデンとカブトムシ飼育ハウス
温室の裏にバタフライガーデンを造っています。ここにはフユザンショウ、イヌザンショウをはじめとして温室で栽培しているポット苗を植栽しています。苗は地植えすることで株が大きくなり種子をたくさん着けます。この種子を用いて苗を作っています。もちろん地植えした苗を親株として保存しておき、収集した植物が絶えないようにしています。
⑮江原川とブルーギル
国道のそうですが、学校の敷地内に川が流れています。1970年に校舎の全面改築が行われましたが、それまでは土護岸の川幅の狭い川つまり童謡の春の小川でした。それが今ではコンクリート3面張りの川に変わり、しかも川幅が大きくなりました。
この川には特定外来生物のブルーギルがたくさん生息しており、毎年ブルーギル捕獲釣り大会を行っています。
⑯イスノキアブラムシ
実習庭園の外周部にイスノキが植栽されています。この木の葉を見ると円形に膨らんだ部分があります。これを割ってみると中にアブラムシが生息しています。アブラムシが加害することによって植物の細胞が異常分裂をおこし虫こぶ(ゴール)ができます。