森と川と生き物の響(ハーモニー)
ひびき総合理科(代表:佐藤麻有)
宮城県
宮城県本吉響高等学校
高校3年生
全体説明
本吉響高校は、豊かな自然に囲まれた宮城県気仙沼市の学校です。森や川が近くにあり、トンボ採集や水生生物調査など自然を観察する授業があります。私たちは総合的な探求の授業で、SDGs「Life on Land」に貢献するために、学校周辺の豊かな自然を紹介し、環境保全に役立てようと考えました。メンバー全員で数回にわたって学校周辺を散策してみたり、グループごとに特定の地点を重点的に調査したりしました。発見した生物を集計し、発見しやすい生物を中心に紹介しています。今回の調査を通して、生物たちは周囲の環境を巧みに利用したり、私たち人間も含め様々な生物と関わりあって生活していることがわかりました。同時に、環境問題についても考えさせられました。調査内容は文化祭等の発表会で情報発信し、登下校で私たちが利用している道が「生物間の響き合い(ハーモニー)」を楽しめる場所であり続けてほしいと思います。
観察ポイントごとの説明
観察ポイント① 学園橋とオニグルミ
学園橋の周辺には、大きなオニグルミが何本も生えています。小さな葉が集まった複葉という葉の形態を持ち、果実は非常に硬いことで有名です。5~6月には小さな花が咲き、10月頃には実が熟します。よく道路を横断しているリスが食べていると思われます。人間も、木材や薬、タイヤ等に利用しています。熟した果実が落ちると、水に浮いて流され、たどり着いた場所で発芽します。そのため、川の近くに生えていることが多いようです。
観察ポイント② 津谷川の多様な生物を支えるヨシ
津谷川のヨシ原を覗いてみると、シジュウカラやツバメをはじめたくさんの鳥類が生息していました。鳥たちにとっては絶好の隠れ家であり、エサの採集場所でもあるようです。ヨシは人との関わりもとても深く、楽器や紙、生薬等に利用されているそうです。ヨシ原の下部は水に浸かっていますが、そこにも様々な水生生物が生息していました。特にスジエビが多く、お気に入りの場所になっているようです。他にもカゲロウの幼虫やヤゴなど多様な生物が生息しており、生物を使った水質調査に向いている場所です。最近は、学園橋の北側で河川敷のコンクリート化が進んでおり、ヨシ原も少なくなりました。そのため、動物や水生生物が追い出されていると考えられ、実際に減少している生物もいるそうです。ヨシ原は、普通の草にしか見えないかもしれませんが、様々な生物にとって大切な場所です。ヨシ原の保護区を作るなど、環境に配慮した開発が必要だと思いました。
観察ポイント③ オニヤンマのパトロール
オニヤンマは全国的に生息している大型のトンボです。河川敷や水田周辺で何度も同じ場所を通り、縄張り争いやパトロールしている様子を観察できます。川や水田、池など様々な環境があるので、シオカラトンボやアカトンボの仲間、イトトンボなど採集できるトンボの数が多いです。幼虫と成虫はともに農業害虫を捕食する益虫として知られています。人間と共存してきた生物なので、今後も豊かな生息地を守っていく必要があります。
観察ポイント④ 毒があるので注意!水辺のヤマカガシ
ヤマカガシは赤色と黒色の模様があるので、識別は容易なヘビです。「カガシ」は古い日本語で蛇のことを指すそうです。水辺を好むため河川敷や水田付近で観察できますが、毒があるので注意が必要です。発見した個体は死骸が多く、中にはきれいな骨として発見された個体もあります。自然界の物質の循環が感じられます。近年は水田の減少で餌となるカエルが減り、数が減少しているようです。水田と関わりがある生物は多いですね。
観察ポイント⑤ 葉も果実も楽しめるヤマグワ
河川敷や道路脇に小さなヤマグワの木が点在しています。以前は養蚕にも使われていた身近な樹木です。葉の形がおもしろく、丸い葉もあればモミジのように分裂した不思議な形の葉もありました。果実ははじめ赤色ですが、夏に熟すと黒紫色になり、食用にされます。ビタミンが多く、健康にも良いそうです。多くの果実はすでに鳥に食べられていましたが、実際に食べてみると、甘酸っぱく癖になる味でした。鳥が好むのも納得です。
観察ポイント⑥ チョウにもハチにもみえるカノコガ
初めて見た時はチョウだと勘違いしましたが、昼間に飛び回るガの仲間です。よく見るとハチにも似ており、フタオビドロバチに擬態しているそうです。激しく翅を動かしている割には飛ぶ速度が遅く、簡単に捕まえられます。翅に触わると、名前の由来にもなっている鹿の子模様が判子を押したように手につくため、ハンコチョウとも呼ばれています。幼虫はタンポポやシロツメクサを食べており、身近な場所に生息する生物と言えます。
観察ポイント⑦ キタテハとカナムグラ
河川敷の散策中、葉に止まっているキタテハを見つけました。図鑑で調べると、類似しているチョウが多く、模様に個体差がある種もあり、同定に苦労しました。キタテハの成虫は、早春から晩秋まで見られ、その間に2~5回ほど発生するそうです。幼虫が唯一餌としているカナムグラは、つる性植物でモミジのような葉をしており、雄株と雌株が存在します。この植物がなくなると、キタテハもいなくなってしまうことがわかりました。
観察ポイント⑧ 道路脇のムラサキツメクサ
ミツバチやマルハナバチが蜜を吸いに集まっていました。シジミチョウやモンキチョウも来るようです。浄化のハーブとして昔から知られ、喘息や百日咳、ガンや通風に使われていました。健康促進効果もあり、お茶として古代ローマから飲まれていたらしいです。実は、あまり問題にはなっていませんが、シロツメクサと同様に牧草として導入された帰化植物です。昆虫にとっては貴重な蜜源植物なので、上手につきあっていきたいです。
観察ポイント⑨ マメコガネとクズ
河川敷や道路脇のブロック塀を秋の七草の1つとして知られるクズの葉が覆っていました。クズはつる性で、他のものに巻き付いて10m以上伸びます。このクズの葉を、マメコガネが食べていました。体色は緑~赤褐色系の個体差があります。触ろうとすると後ろ足を上げて威嚇します。マメコガネとクズは、外国でも外来種として生息しており、大害虫扱いされています。持ち込んだのは人間なので、とても悲しい話です。
観察ポイント⑩ 葉が白くなる不思議な木、マタタビ
中学校へ続く道の途中に、猫が好物とするマタタビの木が生えていました。6月~7月に梅によく似た花を咲かせます。この時期に合わせて一部の葉の半分くらいが白色に変化する不思議な木です。遠くからだと白い花に見えるため、虫が集まると考えられていますが、特に虫が集まってくる様子は観察できませんでした。白くなるメカニズムは、色が抜けているわけではなく、表皮細胞が三角錐型に変化し、光を乱反射するためだそうです。
観察ポイント⑪ 道路脇の至るところにヘビイチゴ
花はバラ科に属するきれいな黄色で、小型昆虫が集まっていました。名前の由来は、「ヘビが果実を食べにくる小動物を狙う」など諸説あります。果実は赤くて目立つので、鳥類が食べていると考えられます。果実は無毒ですが無味で、ジャムに加工すれば食べることはできます。実は優秀な漢方薬として虫刺されやニキビに焼酒漬けが使われたり、解熱や咳止め薬として使われたりしたそうです。意外な用途に驚きました。
観察ポイント⑫ きれいだけど帰化植物!フランスギク
フランスギクはヨーロッパ原産の帰化植物として知られ、各地で野生化しています。マーガレットとよく似ていますが、花は必ず白色で、葉の形が細かく切れ込まないのが特徴です。道路脇やコンクリートのわずかなすき間からでも生えており、生命力が強いようです。北海道では指定外来種に指定されており、宮城県でも各地で増えているようです。きれいな花ですが生態系に影響を与えないように刈り取るなど、管理が必要だと思います。
観察ポイント⑬ 一つひとつの花が美しいオオハナウド
茎の高さが1.5~2mほどで、巨大なセリに見えるオオハナウドが数本生えていました。竹林近くの日陰で湿った場所を好むようです。茎の先端に小さくきれいな白い花をたくさん咲かせます。花をよく見ると、花の位置によって形が異なり、外側の花ほど花弁が大きくなることがわかりました。ハチなど小型昆虫が集まっており、蜜源になっているようです。若葉や茎は食用になり、天ぷらやきんぴらなどで食べるそうです。
観察ポイント⑭ コガタルリハムシとエゾノギシギシ
コガタルリハムシが田んぼ近くに生えていた植物に群がっていました。このハムシは青黒い光沢を帯びていてとても綺麗です。7月以降は土中で休眠して過ごし、春になると再び現れてギシギシ類の葉を食べ、交尾・産卵を経て一生を終えます。暑い夏と寒い冬を休眠して過ごす賢い昆虫です しかも、コガタルリハムシが好んで食べるエゾノギシギシは「要注意外来生物」に指定されているため、このハムシは益虫扱いされています。
観察ポイント⑮ 田んぼにウミネコ!?
散策中、ウミネコが5匹ほど水田にやってきました。ウミネコは普段海に生息しており、魚を主食として生活しています。しかし、海荒れや濃霧、餌不足のときは内陸部に入り、昆虫やオタマジャクシ、ザリガニなどを求め水田に現れることが多いようです。特に、減農薬栽培の水田を好みます。ザリガニは水田に移植した苗を倒したり、畦に穴を開け水田の漏水の原因となるため、ウミネコは稲作にとって有益な鳥と言えます。
観察ポイント⑯ 大きなアオダイショウ
日本本土では最大のヘビであるアオダイショウが、用水路付近の草むらで休んでいました。体長は約150cmでした。体色は個体差があるようですが、私たちが見たものは暗緑色で模様が目立たない個体でした。公園や河川敷、民家の倉庫など身近な場所に生息しており、響高校の校舎周辺や津谷川にも現れることがあります。おとなしい個体が多く、私たちが発見した個体は触っても威嚇してこなかったため、じっくり観察できました。