応募期間

今年の募集は終了しました。ご応募ありがとうございました。

受賞作品一覧
優秀賞
第41回 中学生の部

夏の秘密のさんぽみち

池田有沙

群馬県
群馬県立中央中等教育学校
中学校3年生

全体説明

私が観察路として選んだのは家のすぐ近くの小さな森です。この森は日陰と日向がはっきりしており、奥には大きな池があるのが特徴です。また周りには田んぼや畑が多くあるため長い水路があります。私はこの森に見守られながら育ったと言っても過言ではありません。コロナによって学校が休校になったときには毎日この森に家族で散歩に行っていました。自然がいっぱいあり、楽しみながら歩ける散歩道です。中学校に上がり、なかなか散歩をする機会が少なくなりましたが、この夏、久しぶりに歩いてみて小学校の頃には気づくことのできなかった発見がたくさんありました。特に「観察」という観点から森を歩いてみると、植物と動物は互いに助け合いながら生きていることに改めて気づくことができました。また自分が思っている以上に多くの動物がこの森に住んでいることを実感しました。本当は秘密にしておきたいほど素敵な自慢の森です。

観察ポイントごとの説明

<1シオカラトンボ>

観察を始めてまず出会ったのはシオカラトンボ。オスは夏になると体に塩のような白い粉をつけるためこのように呼ばれています。この粉は近年の研究で紫外線を反射し、撥水する役割があることが明らかになっています。この日は約10匹のシオカラトンボに出会うことができました。シュッと逃げてしまいなかなか捕まえるのが大変でしたが、青い胴体と、まさに塩のような粉はまるで海の様にきれいでした。

<2クサギ>

歩き進めてみると、地面に白い花がたくさん落ちているのに気づきました。見上げてみると、小さい白い花がたくさんついている木がありました。クサギです。クサギは、「臭い木」からつけられたそうですが、近くを通っていて臭くはありませんでした。調べてみたところ、葉を潰さない限り臭くはないそうです。小さい花は少し根元の方がピンクになっており、名前からは想像できないほど可愛らしい木でした。

<3ツクツクボウシ>

奥に進んでいくほど大きく聞こえてくるのは「オーシーツクツク」という鳴き声。これはツクツクボウシです。セミは鈴虫等と違い腹部の筋肉を使って膜を振動させ腹部の空洞で振動させることで大音量の鳴き声になります。特にツクツクボウシは複雑で鳴き声に複数のパターンがあり、変わるごとに他のオスの合の手の数が変わるようです。この鳴き声にもまだ解明されていない謎があると思うとワクワクします。

<4ハグロトンボ>

草木が入り組み自然の日陰を作っているこのポイントでは夕立の時の雨水がまだ乾き切っておらず地面が湿り、苔が多く生えていました。そこで眼の前をハグロトンボがゆっくり通って行きました。シオカラトンボとは違い、ホバリングもせずひらひらと落ちるように飛びます。紫色を帯びた黒い羽にエメラルドグリーンのグラデーションになっている光沢のある胴体はとても美しく飛び方も相まって優雅な感じがします。

<5クズ>

日陰エリアを抜けると、頭上にたくさんのつたがあります。そこには紫色の花が咲いていました。クズです。匂いを嗅いでみるとぶどうのようなあまい匂いがしました。生命力が強いクズはひと夏に10メートルも伸びていきます。アメリカでは日本から持ち込まれた葛が野生化して問題となっており、国内でも他の植物に絡みついて生育を阻害したり電柱などに絡み停電等を起こすおそれがあります。しかし昔はクズを加工して葛湯などの食品として親しまれていました。また茎の繊維を取り出して編んだ葛布というものもあります。つまりクズは根から花まで全て有効活用することが出来るのです。また最近では研究が進み、体に良いことが含まれていることが知られています。厄介者として扱われている葛も見方を変えれば私達の生活に役立つ植物です。これらのことを知って無理に除草剤を撒いたり刈ったりすることが減るといいなと思います。

<6イタチ>

分かれ道のところにイタチが通っていきました。尻尾が長くフサフサしているのが印象的でした。顔はとても小さく、クリっとした目も可愛らしかったです。目の周りは黒っぽい毛で覆われており、口元は白っぽい毛で覆われていました。動きはとても素早く、すぐに隠れてしまいました。

<7ミンミンゼミ>

ここのポイントはカーブになっており傾斜もきつくなっています。しかし、この山の中で最も高く日当りの良い場所です。「ミーンミンミンミンミー」と頭に響くほどの大きな声が聞えます。向かうとミミンゼミが木に止まっていました。ミンミンゼミは、ツクツクボウシと比べて胴体が短く緑色をしています。セミは短命ですが、「一生懸命生きているんだ」と伝えてくれるような力強い鳴き声でした。

<8ニホンヒキガエル>

池の周りに生えている草が動いたと思ったら、ガマガエルが顔を出しました。茶色い体にぶちぶちした背中、眠くて細めているかのような目、なんとも言えない愛嬌を感じます。ヒキガエルは歩いて移動する珍しいカエルです。のそのそ歩く様子を見るとつい応援したくなります。実は、絵本などでよく聞くガマガエルというカエルは存在せず、実際はヒキガエルのことのようです。

<9チュウサギ>

池の真ん中あたりで一際目立つ鳥が目に入りました。チュウサギです。一般にはシラサギと呼ばれていますが、実はシラサギという鳥は存在しません。主にシラサギと呼ばれているのはダイサギ、チュウサギ、コサギの三種です。今回出会ったのは夏バージョンの黒いくちばしと黄色い目元が特徴のチュウサギ。冬になると飾り羽はなくなりくちばしも黄色くなります。凛と振る舞う姿に思わず見とれてしまいました。

<10カムルチー(雷魚)>

水面をのぞくとぶくぶく泡が上がってきます。しばらく見ていると池から顔を出して挨拶してくれます。この魚はカムルチー。雷魚のことです。カムルチーは流れのない穏やかな池などを好む外来種で背中の大きな模様が特徴です。危険を感じると泥に潜り込んで身を隠します。実は鰓の近くに上鰓という特殊な呼吸器官が備わっているため淀んだ池などでも口から空気を吸って酸素を取り込むことができます。

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