受賞作品一覧

小さな発見が楽しい、My favorite promenade

最優秀賞
岡村夏美
東京都
共立女子第二高等学校
高校2年生
第28回 高校生の部

全体説明

「身近な生き物が私たちの未来を変えるかもしれない」。大量のたんぱく質を体内にため込むカイコを利用して人工血管を作ったり、わずかな匂いをかぎ分けるハエやカの習性を生かして知能ロボットを作ったりといったことは既に現実化しているそうだし、また動物の体から血を吸う昆虫の唾液に含まれる血液が固まるのを防ぐたんぱく質を利用して脳梗塞や高血圧の改善薬を作る研究も現在進行中とか…。インターネットで見つけた記事ですが、こういう話、なんだかワクワクして私は大好きです。私が住んでいる多摩地区は東京とはいっても田舎で、とても自然が多く小さな動植物が身近にたくさん生息しているので、そんな想いを巡らしながらゆっくり歩くことができる素敵な散歩道が数多くあります。どのコースを紹介してよいか迷うところですが、その中でも向学心をそそられ、見過ごしがちな自然界の小さな発見が楽しめる“私イチオシ”のプロムナードを紹介します。

観察ポイントごとの説明

ポイント1

二つの巨大なツツジがある場所です。ツツジは車歩道間の植栽帯などの低木としてよく見かける木ですが、大きくても高さ1メートル以下だと思います。でもここのツツジは、高さ2メートル、葉張りは直径6メートルくらいあります。本当はこんなに大きくなるんだということを、この大きなツツジを見て初めて知り、“人工的に作られた形をその植物の姿だと思い込んでいる場合が他にもあるかも知れない”と考えてみるようになりました。

 

ポイント2

 秋になると、赤、橙、黄、黄緑、緑のカラーに彩られる街路樹の紅葉が特に美しい場所です。私が調べた限りでは、外国の紅葉は、赤と緑や黄色と緑など普通2色で、これだけの色数がある華やかな紅葉を見られるのはどうやら日本だけのようです。ふと、葉のどの部分から色が変わっていくのかが気になり変色途中の葉をいくつか選んで観察したところ、葉脈に沿った部分と葉の外側から先に色が変わっていくことが解りました。

 

ポイント3

 確かにどこにでも自生していて珍しくもなんともないツル草ですが、こんなにかわいらしい花が咲くのに、名前は「ヘクソカズラ」。漢字ではもっとひどくて「屁糞蔓」。名づけた人の人格を疑いたくなります。葉を傷つけたときに切り口から出る臭いニオイからその名が付いたそうですが、なんと万葉集の一首にも「くそかづら」として登場しています。後に「屁」まで付けられ散々ですが、私はやっぱりかわいらしい花だと思います。

 

ポイント4

 ブヨがいるかどうかでその土地の自然の尺度が測れるとか。ただ血を吸われる(実際は肌を噛み切って吸うらしい)人間にとっては被害甚大で、迷惑この上ない虫です。公園で父が両足のスネを数か所刺され、膝から下が像の足のように腫れ上がり医者にかかりましたが、一ヶ月も治りませんでした。ところがドクダミの葉を揉んで湿布すると良いと聞いて試したところ、3日で治ってしまいました。ドクダミの解毒力ってすごいんですね。

 

ポイント5

 歩道の端に真っ赤なキノコが唐突に生えています。見た目は限りなく毒キノコ…。近くに住むご年配の方に尋ねてみると、地元でアカダケといわれている食べられるキノコとか。ただ最近ではこれを食べようという人は少なくなったのだそうです。ずっと前から思っていたのですが、キノコは、食料や薬として以外に人間に役立つ何かを秘めているような気がしてなりません。それを解明するには想像力と地道な勉強が必要ですね。

 

ポイント6

 畑近くでニジュウヤホシテントウを見かけます。植物に付くアブラムシを食べる益虫ナナホシテントウとは対照的に、ナスやジャガイモなどの葉を食べる害虫として知られています。でも考えてみれば、かわいらしいイメージのあるナナホシテントウはどう猛な肉食で、アブラムシにとってはまさに悪魔! それに引き替えニジュウヤホシテントウはおとなしいベジタリアンなわけで…。見方を変えると害虫もかわいく見えてきたりします。

 

ポイント7

 冬、この辺りの地面には広い範囲で霜柱ができます。霜柱は地表の温度が0℃以下で地中の温度が0℃以上の時、地中の水分が毛細管現象で地表に出てきて凍ったものです。寒い日が続くと霜柱も少しずつ伸びていきますが、あまり大きくなりすぎると重さで先端が曲がっていきます。そのような5cmほどの大きな霜柱が所々で見られます。霜柱を見るとなぜか踏んでシャリシャリしたくなるのは私だけでしょうか。

 

ポイント8

 人呼んで「亀池」。体長が30センチもあるミドリガメが十数匹、池の中の飛び石の上で日向ぼっこをしています。人の気配を感じると水の中に次々とダイブ! 一見のどかで心安らぐ光景ですが、本来外来種であるミドリガメが初めからここに生息していたはずはありません。多くの人間が、飼っていたカメの飼育を放棄してこの池に放してしまったのでしょう。生態系が変わり消えていった種もあるだろうと考えると複雑な気持ちになります。

 

ポイント9

 クスノキの街路樹は、歩行者と車の運転手の見通しを考慮し下枝を定期的に剪定されるので、ひょろっとした樹形が定番です。しかし、その木を注視していると、やがて切断面付近から新しい細枝が真上に向かって真っ直ぐに伸びてきます。そして元の樹形を取り戻そうと急激に成長します。とても当たり前のことですが、本来の姿を取り戻そうとするクスノキの力強いDNAが私には不思議でなりません。つい応援したくなってしまいます。

 

ポイント10

 コンクリート塀の日陰になっているところで、よくヤモリを見かけます。ただ、ヤモリはコンクリート色に擬態しているうえに、じっと動かないので、注意して見ないとそこにいることに気づきません。私もこの場所は幾度となく通っていましたが、ヤモリがいつもいるということに気づいたのはつい最近です。一方、ヤモリはそんな人間をとても意識しています。私が立ち去ろうとした瞬間、ヤモリは疾風のごとくその場から姿を消すのです。

 

ポイント11

 毎春カエルの卵が気持ち悪いほど産みつけられる公園内の人工池です。水深15センチくらいの浅く淀んだ池ですが、近くに同じような池があるのになぜかこの池だけが超過密状態。池全体がまるで豆入り寒天のような感じ。同種の幼生(おたまじゃくし)が高密度で生息する環境下では、先に孵化した幼生がまだ孵化していない卵塊を捕食すると聞きます。それなのにどうしてこの池でなければならないのか、一度カエルに聞いてみたいです。

 

ポイント12

 この場所に限らず、公園・空き地・路地・家の北側などやや日陰の湿った場所ではいたるところでドクダミを見かけます。特有の臭いがあるせいで処分されがちな草ですが、抜いてもちぎれ易い地下茎が地中に残り短時間で復活する強い生命力を持っています。そんなドクダミですが、「毒溜め」ともいわれ、薬・お茶・入浴剤として多くの薬効があることは有名で、6月頃ほの暗い場所に咲く白く可憐な花には心を打つものがあります。

 

ポイント13

 緑の地に黄色い絵の具をまき散らしたような、美しいタンポポの群生風景をみることができる私のヒーリングスポットです。高さ20センチ程の普通のものもありますが、多くは60~70センチの背の高いタイプです。茎は硬く、普通のタンポポは断面に空洞があるのに対してこちらは身が詰まっています。どれも同じように思っていましたが、タンポポは日本に20数種類も自生しており、世界ではなんと400種類とか。かなりびっくりです。

 

ポイント14

 梅雨が明ける頃、アスファルトのこの路面は、干からびた無数のミミズの屍骸でうめつくされ、それを車が踏んで行くので辺りには鼻を突く独特の臭いが漂います。道路脇には生息に適していそうな柔らかく湿った地面があるのに、なぜミミズは集団自殺するのでしょうか。これは私の推測ですが、雨が土中に溜まって酸欠状態になり苦しくなって這い出てきたもので、その結果日差しに水分を奪われ動けなくなったのだと考えています。

 

ポイント15

 歩道横に設置された金属製の網状の排水溝のフタから草の葉がわずかに出ているのを見つけ、上から覗きこんでみると、青みを帯びた濃い緑色のツユクサが溝の幅一面にびっしりと生えていました。溝の深さは30センチくらい。すべてふたの面ギリギリの高さに育っています。溝の底にたい積した土(泥)に根を張り、けっして環境が良いとは言えないこんな場所にも生命が力強く息づいていることに、心の中でとても感動しました。