応募期間

2024年6月1日 (土)~ 9月30日 (月)

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受賞作品一覧
優秀賞
第29回 高校生の部

思い出めぐる 自然の宝庫 小呂町散策

井斉花織

愛知県
愛知県立岡崎高等学校
高校2年生

全体説明

あたり一面が緑だ。深く力強いそれは、空を背景にした山々。透き通っているそれは、私の足元に広がっている。時折、太陽の光なんかが反射した時には、透明に近い黄色が、風と共に現れては消え、対照的な緑を調和する。今度は耳を傾けてみると、静かに流れる小呂川のせせらぎが私を癒してくれる。ああ、この感じ。自然が生み成すその美しい旋律に、私は覚えがあった。九年前、この地に引っ越して間もない時、この場所は私を自らの美しさで魅了した。この地が好きになれるように、魔法をかけたのだろうか。この澄んだ空気の中、たくさんの生き物と触れ合うことは、私を落ち着かせるだけでなく、穏やかな興奮を齎した。それは、幼いころに感じる、特別な好奇心だった。私はその場所がすっかり気に入り、気づけばほぼ毎日通いつめていた。高校生になり、あの場所にもう一度足を踏み入れる。あの時と同じ。感情も、風景も。そこは、時を止めた自然の宝庫だった。

観察ポイントごとの説明

(1) 川沿いに蝶が数匹。小学生のころ授業の一環として、裏庭からモンシロチョウの卵を見つけて、成虫まで育てるという経験をしたのを思い出した。私は、蝶の魅力は、蛹段階にあると思う。蝶の幼虫と成虫は、色や形が全く異なる。その間の時期である蛹の皮の内側では、どんな神秘的な生命の物語があるのだろうか。そう思って、死んでしまった蛹の断面を切ったことがあるが、全体的に色が失われてどこがどこだかよくわからなかった。

 

(2) 田んぼの上を大群になってとんでいるトンボ。トンボは前にしか進まないから勝ち虫と呼ばれることもあると聞いたが、どうやら空中で静止したり、宙返りも確認されているとか。さらに驚いたのは、翅が一本失われてしまっても飛べるということ。トンボってどこまでもよくできているのだなあと、思わず感心してしまう。しかし眼球はあまり優れておらず、目の前で指を回すとその場に倒れるらしいが、失敗して逃げられてしまった。

 

(3) 川沿いに咲いているのは、花や葉の形、見つけた時期からしてヒメジョオンの可能性が高い。似た花に、ハルジオンと言うのもあるらしいが、そちらは四月から五月咲くそうだ。ヒメジョオンの花弁にほのかに紫色がかっているのは、そこの空気が清浄であることを表すらしい。このような知識を知ると、植物観察はさらに楽しいものになると思う。柵があり近くで観察はできなかったが、見つけたのは真っ白の花という印象が強かった。

 

(4) 昔は、透明な水が流れる川のそばに、よくアマガエルを見かけた。あのカエルは黄緑で表面が滑らかな石のようだった。今回は、茶色で背中がごつごつしているカエルを発見。ツチガエルかヌマガエルだろうか。田んぼを囲む草むらを踏むと、リズムを造って水に飛び込む。体の大きさもかわいいので、幼き時かなり気に入った記憶がある。ちなみに、アマガエルの表面には弱い毒があり、素手は控えるべきだと小学校で調べ学習をした。

 

(5) 整備されず小石がむき出しになった小道沿いに、一際目立つ大きな黄色い花。真っ黄色かと思えば中央は燃えるように歩く、ひまわりを思い出させるそれは、ハドベキアと言うらしい。さて、突然だが私は花言葉が大好きだ。花言葉を知っているだけで、観察は何倍も楽しくなる。そして、このルドベキアの花言葉は、「公平」「正しい選択」。炎天下の中で力強く咲き、精一杯自身を主張するその姿に相応しいものだと思った。

 

(6) 松葉菊は今までもよく目にしていた。この花の特徴は、何といっても葉である。多肉植物なのだ。小さいころ、この葉肉を傷口に塗るとよいと聞いたことがあるが、実際特に効能はないらしい。それはそれとし、私はこの葉の柔らかい感触が好きである。自然は特にこんなに奇妙な物体をも作り出すのか。紫がかった濃いピンクの花もとても綺麗だ。繁殖力が強いそうなので、荒れ地と化している家の前の花壇に、いつか植えてみたい。

 

(7) コンクリートを突き破って細く長い茎を伸ばしているその生命力の強さ。これは、柳花笠と言うらしい。見かけたのは四、五本だったが、是非群生している姿を見てみたい。健気な美しさというところだろうか。花の付き方は朝顔に似ているが、大きさは全く異なり直径は手の親指ほどだ。花言葉は「幸福に」「生命力の強い」。おお、この花を見て感じたことが、そのまま花言葉であった。どうやら誰にでも、それは感じさせるようである。

 

(8) 何年かぶりに見た、蝶類の中でも特に有名なアゲハ蝶。あまりに優雅であるので、思わず声が出た。薄い黄色を黒でひきしめ、橙や青でアクセントが付けられている。実は、私の家の家紋はアゲハ蝶の横から見たシルエットである。しかし、アゲハ蝶は静止画ではもったいない。花に止まり、翅をゆっくり上下する姿や、私のみぞおちほどの高さを翅を大きく動かしながら飛ぶ姿こそ、見る者の視線を縛りつける美しさがあるのではないか。

 

(9) ルドベキアもそうだが、この花も民家を背景にかなり存在感がある。草丈は一メートル以上、強い赤色に、黒褐色の斑点がある。その姿から、オニユリと名前が付いたらしい。鬼ユリ、だ。今回見つけたそれは、茎にむかごが付いていないので、正確にはコオニユリと呼ばれる。花は地面に向かって咲き、ほおずきを縦に伸ばしたような実をつけている。下から花をのぞこうとすると、太陽が花弁を照らし、さらに強い光を放った。

 

(10) 以前住んでいた埼玉県では体全体が茶色のトカゲが当たり前だったが、引っ越して最初に見たトカゲは、尾が綺麗な深い青色をしており、衝撃を受けた。環境によるものなのかと思ったが、どうやらこれはニホントカゲの幼体で、色彩変異によるものらしい。しかしそれでも、都会で見ることは少ないというのは確かだそうで、地域別に一つの生物の「一般的」が変わるのはおもしろいと思った。最近では、茶色いトカゲは音沙汰無しである。

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