応募期間

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受賞作品一覧
優秀賞
第33回 高校生の部

静かに変わりゆく川辺の観察路

内藤 遊多

愛知県
栄徳高等学校
高校2年生

全体説明

今回御紹介する観察路は、私の家の目の前を流れる天白川の河川敷を旅するものです。名古屋市の東端に位置するこのフィールドは、獣・鳥から亀・蛇・カエルに昆虫・魚とひと通り全ての生き物を観察することができます。きっと一日では見尽くすことのできない規模で、生き物達と出会うことができるでしょう。生き物好きにはたまらない場所だと思います。自分が初めて川に入って魚を捕って早14年、ずっとこの川原の恩恵を受けてきました。もはや河原に育てられたと言っても過言ではありません。自分が「生き物屋」として今生きている「源」です。とっておきのオススメですので、是非!実際に行ったかのような高揚感の一片でもこの絵地図から感じて頂けましたら幸いです。そしてもしよろしければ!実際に足を運んで頂けたなら、こんなにうれしい事はありません。コースは途中、草むらの中を歩いたりするので、お越しの際は、長袖長ズボンをオススメ致します!では早速!!

観察ポイントごとの説明

ポイント① 出迎えの鳥達

駅前のにぎやかな喧騒は川へ出た途端ぱたりと止みます。川とはいっても両岸がコンクリート、現代の川を反映したかのようなこの川は、これより歩くこととなる天白川の支流、繁盛川です。たとえコンクリートでも、必死に息づく者達がいます。コサギを初めとした水鳥達が多く見られるのは、水面下に魚のいる証拠です。時には亀が歩いていることもあります。蛇を咥えたカラスに出くわすことも。そんな川辺の小道は、すぐに天白川へ出ます。

ポイント② 深みに見る外来 vs 在来

両手に緑の生える散歩道に入ると、右手にコンクリートの広場が見えます。柵もなく、川岸からすぐ深みとなっているので危険ですが生き物の影の濃い場所です。水面を覗けば、小魚のカダヤシの魚影が多数見られます。大きなブルーギルやウシガエルの鳴き声等、見られる生物はほとんどがアメリカ原産の外来生物であるのが残念です。外来亀に負けじと顔を出すイシガメが救いです。在来生物の抗う姿が、そこにはあります。

ポイント③ 集うハンター達

コンクリート広場からは、川幅いっぱいの段差は小さいものの立派な滝が見渡せます。深みは滝に落ち、浅瀬となります。ここは滝から落ちた小魚を狙っているのか、大型肉食魚であるナマズやライギョ、水鳥が集まります。その大きさゆえ水の上からしっかり姿を拝める大型魚達。本来夜行性であるナマズは、昼間でもしばしば。カワウやアオサギ等の大型鳥類達にまじって、翡翠色の小さなハンターの姿も。お気に入りの場所のようです。

ポイント④ 滝の下のオアシス

滝の落ちこみから下流へすぐの所に、草の生えた島がいくつか点在します。人の立ち入らない辺に多くの生き物が集まっています。水鳥や小鳥達の常連の中に、目の周りが白く愛らしいメジロの姿も見られます。エサが豊富な様で。可愛い小鳥達が飛び回る様子は我々から見れば微笑ましく映りますが、小さな肉食獣からすれば魅力的な獲物として映るようで、イタチが最も出没する場所でもあります。食物連鎖を感じやすい場所です。

ポイント⑤ 鳴き声あふれる

オアシスから、岸はしばらくコンクリートです。にもかかわらず、表面は豊かに植物で覆われています。虫達の好む環境が年中変わらず残されるため、多様な種が観察できます。この場所は夏の夜に訪れて欲しいのです。ウマオイは夏に最も数が多い鳴く虫で、肉食の獰猛なキリギリスの仲間です。ウマオイにはハタケとハヤシの2種がいますが、ここでは両者が見られ、鳴き声を聴き比べることができます。秋の夜にもオススメの場所です。

ポイント⑥ 蠢く者

しばらくは草の生い茂った夏でも、足場はコンクリートで歩きやすい道ですが危害を加えうる者もいます。本土において最も有名な毒蛇、マムシもまた、この歩きやすい道を利用することがあるのです。歩かれる際は御注意を。川の対岸に稀に茶色の大きな獣を見かけることがあります。そいつは泳いでいることも。外来生物である巨大なネズミ、ヌートリアです。本来は夜行性なのですが、昼もよく見かけます。いろんな者の蠢く道です。

ポイント⑦ 水際へ降りて

コンクリートの歩きやすい道も終わりを迎え、草地をかきわけ進まなくてはならなくなります。ここでは少し川の水際へ降りてみます。この辺りは比較的浅いため、安全に観察ができます。川の中にころがった石を静かにかえせば、小魚が逃げていく姿が。砂岸には多くの動物の足跡が見られます。人が滅多に近づかない場所だけに多くの獣が往来するようで、ヌートリアや水鳥、タヌキのような足跡、小さなイタチのもの等、足跡は多種多様です。

ポイント⑧ 流れつく住民

川岸は少し離れ、草藪の中を進むことになります。しばらくゆくとまた川岸が近くなり、降りることのできる場所となります。草をかきわけ、水面を覗けば、きっと光の反射できらきら輝く美しい川が御覧頂けるでしょう。ここでは希少な水生昆虫、ヒメタイコウチを発見したことがあります。生息環境としてはこの川は適さないため、おそらく支流の河川の上流、どこかの泥地から雨の増水によって流されてしまったのだと思われます。

ポイント⑨ 川の中・川の外

川岸に沿って少し進むと、再び開けた川岸に行き着きます。砂岸の水中には秋口ならば愛らしい生まれたてのスッポンが潜み、草は水面に垂れ、カニの抜け殻をひっかけ揺らします。静かにただ流れる広い川にのどかな時を感じますが、川の中では数知れない命が食いつ食われつ必死で生きています。すっと目の前をカワセミが横切ったり、水面からなにに驚いたのか跳ねる魚、足元から顔を出す小さな蛇等、発見の尽きない所です。

ポイント⑩ 消えた楽園

川岸から離れ、草地へ向います。夏にはどこもうっそうと茂った河原において貴重な芝生地帯の一つであり、安全に歩けるため観察にはもってこいです。ここは秋の夜がオススメ。カンタンやマツムシが美声をふるう合唱会が毎夜、催されていました。しかしそれは過去の話。度重なる夏場の草刈りによりバッタ達やヘビは、この場所から姿を消してしまいました。地中のケラが残るのみ。静かな夜の草原を見渡し、悲しみに耽ります。

ポイント⑪ 訪問者

階段を上がり、堤防の上の散歩道に戻ります。川側は雑草、町側は植え込みという景色がしばらく続きます。植えこみの植物は秋に花が咲き、ガやチョウの舞う姿も見られます。以前ヤブキリというキリギリスが見られたことがありました。ヤブキリは森林に住み、この河川敷には生息していません。つまり近くの森から飛来したと考えられます。他の場所から訪れる生き物たちによっても、豊かな川辺の生態系が形作られるのです。

ポイント⑫ 残る音

散歩道の途中、この観察路コースで歩くのはあとわずかという所に、ちょっとした面積の浅い草地があります。この場所もかつて鳴く虫の声にあふれていました。希少なタイワンクツワムシ達がうるさい程に鳴き、スズムシ達が鳴き交わす夜は、過去の姿です。スズムシ捕りに幾度となく訪れたこの場に、今なお変わらぬ音は、川のせせらぎだけです。草刈りは自然界の美しい歌を奪いさってしまいました。

ポイント⑬ 外来侵略

再びここからは草むらを歩くこととなります。草地に降り、川辺までの道のりは主にコンクリート護岸の傾斜です。初夏にもし、この橋の下の薄暗い水中を覗けたなら、驚く程多くのお化けサイズのお玉じゃくしのいる光景を目にすることでしょう。アメリカ原産、ウシガエルの幼生です。彼らはその体格、そして口に入るものなら何でも食べるという性質上食害による生態系への悪影響が著しい外来生物で、この川にも暗い影を落としています。

ポイント⑭ 姿見えぬ昔

ここから上流へ向け、とって返します。しばらくは広い河川敷を歩くことになりますが、その地表ところどころに不可解な土の盛られたものが見られます。これはモグラによって作られるモグラ塚、と呼ばれるものです。彼らが地中で穴を掘った際に出る土を、地上に押し出してできるもののようです。製作者自身の姿を見ることはほとんどありません。こういった姿無き作品に出会えたりするのも、散策の醍醐味の一つだと思います。

ポイント⑮ 草原の狩人の宿

川を眺めながら歩こうとするとササ藪が視界を阻みます。ここで気をつけなければならない相手が、草原の狩人・コガタスズメバチです。彼らは毎年、この近辺に巣を作ります。巣は大体人の頭程のサイズで、球体をしています。スズメバチの中では比較的おとなしい部類に入るコガタスズメバチも、巣が危険にさらされたと判断すれば怒り襲いかかってきます。気づかず近付くと危ないので、充分注意し、見つけても離れて観察してください。

ポイント⑯ 消えし者

ポイント⑩の階段から、再度散歩道に出て、上流へ進みます。しばらくは両手に草地が続き、チョウやトンボ、小鳥等がたくさん横切っていきます。ポイント⑯の周辺でかつて見かけることの多かった、国の鳥であるキジ。草刈りによって見かけなくなってしまいました。彼らは深く茂った草地を好むため、刈られてしまえば来なくなります。また、まばらに生えていた低木も切られたため、そこで暮らしていたアオマツムシももう見られません。

ポイント⑰ 草原を賑わす者達

なおも上流に向け歩きます。天白川のこの一帯の植生は豊かで、生き物の多さもうなずけます。多くの虫が好むクズが密生、鳥の隠れ家ともなるススキの株。道の脇にはエノコログサが群生し、こちらも昆虫達に大人気。道を歩けばトンボはもちろん、バッタが飛び出してくることも。また、春先の夜には冬越しを終え鳴き始めたシブイロカヤキリに出会えます。生態系の下位で上を支える小さな昆虫達との、沢山の出会いがある道です。

ポイント⑱ 草刈りの被害者と利用者

先程から何度となく述べている「草刈り」、これによって名古屋市から消えようとしている昆虫がいます。「タイワンクツワムシ」、本種は愛知県のレッドデータブックに記載されており、生息数の少ない鳴く虫の一種です。この種を含めた多くの生物を河原から追いやった残酷な草刈りですが、奪うばかりではなく与えていくものも。草刈り後に虫達を食べに、多くの鳥達がやってくるのです。在来種であるキジバトと外来種であるドバトの並ぶ姿も。

ポイント⑲ 亀は多いが…!?

最初に歩いた「繁盛川」が天白川に注ぐ地点は小さな橋が架かっており、覗けば亀がうじゃうじゃいます。ただし、全てアメリカ原産の外来の亀。実は異様な光景なのです。共に泳ぐコイも、日本のものではなく中国の血。外来生物に占拠されてしまっているのです。しかし負けじと、ナマズやスッポンが現れることもあります。コンクリート護岸には排水穴が多数あいており、ちゃっかり人工物を家とするアオダイショウの姿が見られるかも。

ポイント⑳ 汚いのが好き

さらに天白川を上流に向かえば、川とは反対側にドブが見えます。生活排水が流れでている汚い水質の中には一見するとなんの生物も見あたりません。しかし汚水でも生活できる生物がひっそり息づいています。アメリカザリガニはその代表で、このドブにも多く見られます。幼体は赤みのあるよく想像される姿とは異なり、茶色い地味な体色をしているため、その外見から「ニホンザリガニ」と勘違いされることもしばしば。

ポイント㉑ 地味な外来生物

大きな車道橋を渡り、対岸へ。対岸は田んぼが広がっており、クサガメ等亀の姿を見ることもしばしば。橋の下を覗けば、のら猫が数頭見られるでしょう。あまり印象はありませんが、ネコも立派な外来生物です。多くの鳥がネコの標的となるのです。ネコのうろつく一帯ですが、それでも鳥等の生き物の影は濃く、川や田で愛らしい丸い体形のカルガモがよく見られます。

ポイント㉒ 最終ポイント

ポイント㉑をとって返し、元の小さな橋の場所まで戻り、橋の手前に入る小さな小道を抜ければ最後のポイントです。芝生の広がるコンクリートの人工岸ですが、その一画に昨年オオスズメバチの営巣を確認しました。観察の結果、12月中旬頃まで活動しているのだと分かりました。今年はどこに巣を作っているのか、などと思いを馳せ、目を川に向ければ、ずっと歩いて来た下流側まで一望することが出来ます。

 

今回の観察を通して、やはり楽しい話ばかりは語れなかったという事が重要です。年々増えゆく外来生物達。今回のコースで取り上げただけでも十一種もの生物が挙がりました。外来生物の中には、アオマツムシのように草食性で日本に元々似た生物もおらず、競合も起こらないといった影響力の低いものからウシガエルのように食害による深刻な問題が起きている者まで、様々です。今日、人間が世界を舞台に活動している時点で、外来生物の侵入は必然なのかも知れませんが、良いことではけっして無いので、これからも向き合っていく必要を強く感じる次第です。さらに、この問題においては天白川に限定されるものではありますが、「草刈り」による悪影響。あわれタイワンクツワムシのような希少種を守るためにも、早急に草刈りの仕方の見直しを求めていきたいと考えています。この素敵な河原を、未来に残すためにできることを精一杯やっていきたいと思います!

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