受賞作品一覧

外来生物侵攻!! 軍師官兵衛ゆかりの道

優秀賞
毛利 元紀
兵庫県
飾磨高等学校
高校2年生
第31回 高校生の部

全体説明

僕が通っている姫路市立飾磨高等学校は、兵庫県南西部の中播磨と呼ばれる地域にある。今年のNHK大河ドラマが「軍師官兵衛」に決定してから、姫路市では案内板が整備されたり、幟が立てられたりと大変な熱気で、高校の地元妻鹿でも黒田官兵衛ゆかりの地めぐりの観光客が見られるようになった。そこで、夏休みを利用して、軍師官兵衛ゆかりの道を自然観察路として回ってみることにした。

観光客気分で、山陽電鉄妻鹿駅から出発して妻鹿駅に戻る観察路を設定してみたのだが、図鑑には載っていない植物たちをネットで探し回ったり、動物の種類を調べるために玉網や籠網で捕獲したり、苦労の連続だった。その結果気づいたことは、名軍師官兵衛の知略をもってしても防ぎきることは不可能と思われる、外来生物侵攻の激しさだった。まだ残されている在来の自然を守るためにも、外来生物に進行された播磨の現状を紹介したい。

観察ポイントごとの説明

①市川河川敷遊歩道(舗装道)

妻鹿駅の改札を出てすぐ、市川河川敷遊歩道へ降りることができる。ここでは外来生物の侵攻が著しく、メリケンムグラ・アレチハナガサ・ハマカンザシ・ムラサキツメクサ・メリケンガヤツリ・ヘラオオバコ等、花や実が目立つ植物はすべて外来生物で、頑張っている在来種のメドハギにも、要注意外来生物であるアメリカネナシカズラが巻き付いている。川中のテナガエビの姿に救われた。

 

②市川河川敷遊歩道(未舗装道)

遊歩道を上流に向かって歩いて行くと、舗装された道が終わり、草むらの中を進むことになる。ここでは、アシ・コヒルガオ・オニグルミ・ハゼノキ・センニンソウ等の在来種が多く見られ、元の自然が残されているようである。人間活動が外来生物の侵攻を助けているのだと痛感した。川の中央部に設置されたコンクリートブロックの上では、カワウやセグロカモメ・アオサギが翼を休めていた。

 

③荒神社(国府山城跡登り口)

河川敷遊歩道を出て少し歩くと荒神社がある。官兵衛が秀吉に姫路城を譲り渡した後、移り住んだとされる国府山城跡への登り口でもある。アベマキの大木が作る涼しい木陰で、アブラゼミやクマゼミが盛んに鳴いている。クマゼミは以前はもっと南方にいたが、北上して今では関東にまで分布を広げているという。人間活動による温暖化が原因か。官兵衛は、九州で初めてクマゼミを見たのだろうか。

 

④オオシオカラトンボのパトロール道

荒神社を出て東に進むと道沿いに幅50cmの用水路がある。周りをオオシオカラトンボが飛びまわっていた。全てオスであり、なわばりをパトロールしているように見える。用水路の中にはたくさんの小さな魚影があり、網ですくってみるとメダカだった。何回もすくって確認する。そうするうちに何匹か違う種類を見つけた。外来種のカダヤシだ。今はメダカが優勢だが、油断は禁物である。

 

⑤姫路市立飾磨高等学校内小池

しばらく進むと飾磨高校だ。高校敷地内の小池は、周囲役200mで、上から見るときれいなD字形をしている。水生生物の種類が豊富で、外来生物もかなり侵入している。池面を覆い尽くす温帯性スイレンやアメリカザリガニは池内で最も目立つ生物である。しかし、在来の生物たちも負けてはいない。クサガメは前述のザリガニを食しているし、メダカは他では見られない大きさに育っている。

 

⑥テニスコート前の水田

高校テニスコートの南側には水田が広がっている。たくさんのオタマジャクシが泳いでいるそばには、チュウサギのものと思われる足跡があった。泥の中を這いまわっている茶色の巨大な巻貝はスクミリンゴガイ、通称ジャンボタニシと呼ばれる外来種である。イネを食害するとして問題になっているらしい。イネの茎の水に浸からない高さには、目立つピンク色の卵塊が産み付けられていた。

 

⑦元宮八幡神社

少し西に進むと、元宮八幡神社がある、社を守り歴史を背負うように堂々と立っているのはムクノキの大木だ。幹周りは2m80cmもあり、板根が発達している。周囲にはクスノキが植えられ、古びた土俵があり、ジガバチが巣作りの場所を物色しているようだった。境内には黒田二十四騎の一人母里太兵衛の碑が立てられている。

 

⑧黒田職隆廟所

少し寄り道をして官兵衛の父職隆の墓所へ向かう。墓所に寄り添うようにエノキとムクノキの大木が立っている。エノキを食草とするゴマダラチョウが、ごつごつとした幹にとまっていた。翅の黒色と白色のコントラストがなんとも言えず美しい蝶である。透明な翅を持つ大きなクマゼミの姿もあった。墓には、地元の人々によりいつも花が供えられている。官兵衛ファンにはたまらない場所だ。

 

⑨クモハゼ発見 1m幅用水路

観察路沿いの用水路は、すべてコンクリートでおおわれている。カワニナが多数見られ、泳いでいる小魚は確認した限りでは観察路④以外ではすべてメダカだった。メダカは水草が豊富でないとカダヤシに優占されてしまうという。水田と行き来しているのが生き残りの秘訣かもしれない。用水路を見ながら南へ歩いて行くと、クモハゼを見つけた。海が近いので紛れ込んだのだろうか。

 

⑩山陽電鉄脇 6m幅用水路

さらに南へ進むと大きな用水路がある。外来種のオオカナダモの茂みの傍に在来種のヒシが浮いているのは、沈水植物と浮葉植物ですみ分けているのかもしれない。大小の魚たちが群れ泳いでいるが、仕掛けた籠網を引き上げるとクサガメと体長25cmのスズキがかかっていた。糞から、ここのクサガメはカワニナを食していることが判った。今のところ外来種のカメは発見できず、少し安心した。

 

⑪山陽電鉄高架脇シンジュの茂み

線路沿いに妻鹿駅を目指して進んでいくと、シンジュの若木が道沿いに数十mにわたって生い茂っている場所がある。中国原産の落葉高木であるシンジュは、最初、庭木や街路樹として導入されたものが野生化し、成長が早く河川敷や道路脇に繁茂して在来種と競合するだけでなく、アレロパシー効果で他の植物の成長を阻害するらしい。観察路の最後に外来生物侵攻の凄まじさを見る思いがした。