受賞作品一覧

私のフィールド 平戸永谷川

最優秀賞
東郷なりさ
神奈川県
神奈川県立光陵高等学校
高校2年生
第21回 高校生の部

全体説明

中学1年の春に、わたしは横浜に引っ越してきた。その冬、たまたま友達と平戸永谷川の上外郷橋のあたりでオナガガモやコガモを見つけ、それ以来、バードウォッチングにのめりこんだ。川伝いにあちこち歩いたおかげでこのあたりの地理には詳しくなった。今回はそのごく一部だが、家から近い外郷橋から柳橋の区間を紹介する。外郷橋の下流で川は国道1号船や線路の下にもぐる。また、柳橋の先は環状2号線にはさまれて川に近づけない。この区間はまとまって散歩道が続いている数少ないところなのだ。そのため、ウォーキングや犬の散歩に来る人も多く、双眼鏡でのぞいているとよく話しかけられる。都会でありながら見知らぬ人と気軽に話ができるのは、わずかばかりの自然とはいえ、その中で同じ生き物を見ているからだと思う。中1のころから書きつづけている観察記録と、川で会ったおじさんたちの話から、いろいろな季節にふれて書いてみた。

観察ポイントごとの説明

1.上外郷橋

このあたりは秋が一番楽しい。左岸は川に下りられるようになっていて、最近あまり見かけないジュズダマがなっている。渡ってきたオナガガモなどが冬羽に換羽し終えたころに行けば、流れてきた羽が見つかる。毎年11月ごろには、この橋のすぐ上流にヒドリガモがひとつがい渡ってくる。それから、忘れてはいけないのが5、6月だ。カルガモがヒナを連れている光景が見られる。

 

2. 環状2号線下流

川岸に植物が多いからか、今回紹介したポイントの中で一番、鳥の多いところだ。ある程度、水深があるためアオサギ、カワウなど大型の鳥もときどき下流からやってくる。カルガモ、コサギは常連で、冬はオナガガモ、コガモでにぎわう。4年前ゴイサギを見たのもこのあたりだ。ただ最近、左岸側にあった畑と森がつぶされ、平戸永谷川遊水地整備工事が始まった。チョウやトンボ、鳥が少なくなった気がして心配している。

 

3.永谷橋

放鳥されたらしいアオクビアヒルがいつもいて、エサをやる親子連れ、犬の散歩の中の人たちの話題になっている。アオクビアヒルはマガモに似ているがひとまわり大きく、飛べないようだ。夏になると、カモらしく♂はエクリプス羽(♀に似た地味な羽)になるのでおもしろい。一時は♂5羽、♀2羽がいたが、数が減ったといううわさもある。行ってみたが、オオブタクサが茂っていて確認できなかった。このあたりはハクセキレイも多い。

 

4.猫橋

ここで、上流で二つに分かれた川が再び合流している。永谷橋にいたのとは別のアオクビアヒル、♂2羽♀1羽がいるが、わたしがいつも探すのは別の鳥、バンだ。ときどき、草の中から出てきたところを目撃する。通年いるのかまだ不明だが、草が枯れた冬に見られる可能性が高い。ここは人の集まる場所にもなっていて、川を見ているといろいろな人から話しかけられる。この間はおじさんが、アオダイショウがいるよ、と教えてくれた。

 

5.猫橋上流

猫橋からは、川沿いに道のある、向かって右の流れをたどることにする。橋の向こうにキリの木があり、春にはきれいな花が咲く。夏、川の中はガマやオオブタクサ、ススキが茂り、どこに流れがあるのかすらわからない。でも、冬になり草が枯れると、そこに棲む虫や草の実を狙ってコゲラ、ジョウピタキ、ウグイス、アオジ、キセキレイなどがやってくる。木の実を食べ尽くした2月ごろがおすすめだ。

 

6.殿山橋

中川橋から殿山橋までの右岸は、ケヤキと竹の林になっていて涼しげだ。カワセミを見るチャンスが多いのもこのあたり。ウォーキング中のおばさんが見つけてくれたこともある。また、右岸側の殿山楠の下あたりに、一画だけ自然のままの土手があり、3月ごろ、ホトケノザ、オオイヌノフグリ、トウダイグサ、ツクシなど春を感じさせる野草がたくさん生えてくる。

 

7.神明社

少し川をはずれて、神明社に寄ってみる。ちょっと暗く閑散とした神社だが、夏はアブラゼミとミンミンゼミの合唱がすごい。石灯龍や木の幹、葉の裏などを見れば、セミの抜け殻がたくさんついている。つい手にとってアブラゼミかミンミンゼミか、♂か♀かを確かめてしまう。

 

8.松神橋上流

左岸は公園風に整備されていて、川で遊べるようになっている。まわりには、ハナミズキ、サルスベリ、ニシキギ、カリンなどの木が植えてあり四季折々きれいだが、管理されすぎていて、生物は多くない。川岸の土手は、いちめんシロツメクサになっている年もあり、四つ葉のクローバを探したり、花輪を作ったりして楽しめる。

 

9.水田橋

この付近はいつも、釣りのおじさん、川遊びに来ている子供が多いところだ。今年5月にこの川でコイ、フナなど1200匹の死骸が回収されたため、今は「死んだ魚にさわらないで」という紙があちこちに張ってあり、釣り人もほとんど見かけない。右岸に渡って川に下りてみると、ナミアメンボがたくさんいて、ギンヤンマが水の中でひっくり返っていた。魚が死んだのは農薬の流入が原因だと言われているが、どうなのだろうか。

 

10.柳橋

この先、川は環状2号線の間に入ってしまうので、この橋を散歩の折り返し地点にしている人が多い。環2の暗渠に入る手前にコサギ、キセキレイ、-クセキレイなどがいる。おじさんが、獲ったアメリカザリガニを見せてくれた。境川でコイヘルペスウイルス病の陽性反応が出たという張り紙を見たので、その話をしてみると、コイが減って逆にフナやザリガニが増えたという。

 

●感想

よく歩いている場所なのに、いざ何かを書こうと思うと、観察があやふやだったり、見ているものに偏りがあったりすることを実感した。川の中ばかり見ているせいで、まわりに何があるのか知らなかったし、鳥以外の生物についての記録も少なかった。この絵地図を描くことで、この川をいろいろな視点から見るこ_とができたと思う。また、これまで何気なく書いてきた記録が役に立ったのもうれしかった。最近、平戸永谷川遊水地整備工事が始まったり、コイヘルペスウイルス病や魚の大量死が問題になったりと環境が変わってきたと思う。とくに、平戸永谷川遊水地を作るために畑と森をつぶした影響は大きいはずだ。正確にカウントしているわけではないけれど、見られる鳥の数も少なくなった気がする。

多くの人が親しんでいる散歩道なので、せめてこのままの状態で残したい。