応募期間

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受賞作品一覧
環境大臣賞
第38回 高校生の部

世田谷の崖線に息づく生命(いのち)

三宅結菜

東京都
明治大学付属中野八王子高等学校
高校1年生

全体説明

世田谷区に住む私の散歩ルート、成城。
四季折々様々な顔を見せる並木道、成城憲章で守られた緑豊かな生活環境は勿論のこと、南側の崖からの美しい眺めは私の癒しです。眼下に広がる喜多見の街並み、神奈川県の山々や富士山まで見え、崖下から見る山のような森に、東京にこんな自然があるんだと驚きます。でもどうしたら10m~20mの高低差が生まれ、緑豊かになったのだろう?という疑問を抱きました。
その答えとなる国分寺崖線は立川市から大田区まで約30㎞、10万年以上かけて多摩川が武蔵野台地を削ってできた河岸段丘崖のことで緑が、自然の地形を残し、かつ市街地の中で帯状に存在し、動物や湧水の自然環境に恵まれ、都市化が進んだ東京の中で貴重な空間となっています。東京の「みどりの骨格」世田谷の「みどりの生命線」と呼ばれています。崖線からの眺めと自然を愛した人々に思いを馳せ、皆さんにこのエリアを紹介しましょう。

観察ポイントごとの説明

① 崖線の上の宅地に桜が多く植えられています。さくらさくらいま咲き誇る~という森山直太朗の歌のモデルにもなりました。春には成城学園の前の桜並木の中を散歩するのが私は好きです。桜並木は学園開発当初の昭和初期、生徒達の手によって植えられ300本以上に及びます。夏は緑の葉を茂らせて暑い夏の日ざしを遮ってくれます。また秋には、近くの銀杏がいっせいに黄色く染まり落ち葉を踏みながらゆっくり歩くのもおすすめです。

② 国分寺崖線を切通した小田急線上に架けられた不動橋と富士見橋。100年以上昔から、人々に愛されてきた眺望は関東の百景の一つ。富士山を横目に一息。3本の大樹となったヒマラヤ杉がシンボルツリーの成城三丁目こもれびの庭市民緑地に着くと紫やピンクの小花が目に入りました。天使をラテン語で表したangelosが由来といわれるアンゲロニアです。周りには蜆(しじみ)と同じくらいの小さな蜆蝶が飛んでいました。

③ 成城三丁目緑地には湧水の川があります。手をつけてみたら凄く冷たく、血管が締まるようでした。そこには水馬(あめんぼ)や塩辛蜻蛉、樹木のほかに空飛ぶ宝石、川蝉が飛んでいました。鳴き声はチィッチィッと聞こえ、コバルトブルーの羽が目立ちました。天敵の蛇や鼬(いたち)が登れない傾斜の土の崖に巣をつくるため、崖線がなくなれば川蝉は危険に晒されます。命の宝庫、崖線の保護は必要不可欠です。

④ 国分寺崖線沿いには昔からの急坂が沢山あります。その中でも赤茶色の関東ローム層がのぞき、昔ながらの切通しのおもかげを残す不動坂と呼ばれる坂の由来となった喜多見不動堂に寄ってみました。湧水の滝の池には鯉が泳いでいて時折ピチャンと跳ね、私を歓迎しているようです。この湧水でかつて水行が行われたとか、いないとか…。滝の水は暗渠を通じて野川に注いでいます。

⑤ 成城みつ池は「都市計画緑地」として保護されており、立ち入りは制限されています。大鷹や沢蟹なども生息し彼らの住処となっています。私が歩いた崖下は暑い日でジメジメと湿気が籠もり、蝸牛が夏眠中です。体内の水分蒸発を防ぐため膜を張ってしまっているので、一見死んでしまっているようです。またハケと呼ばれる崖から出る湧水が滲んでいました。近年、台地上にアスファルトが増え水が染み込まず湧水は年々減少しています。

⑥ 暑い日には人間も動物も水分補給は欠かせません。私も喉が渇き水を飲みに行ったら、水飲み場にとまる黒い蝶を見つけました。紋黄揚羽です。体温調節や栄養成分補給のための給水行動をしているようです。蝶は体温を上げるのは羽を開き日光を吸収すれば可能ですが、下げる機能はありません。
変温動物の彼らにとって地球温暖化は大きな問題で、暑さを凌ぐため年々北上していると聞き、生態系のバランスが崩れていくことに不安を覚えました。
蝶は動物の排泄物(おしっこ)などに給水しに集まることも多いため、その主成分であるナトリウムが蝶の必要としている成分と思われています。ナトリウムは蝶が活発に飛び回るための栄養素、卵を作るための栄養素とされています。親子連れが捕まえようとして飛んでいきましたが、行動一つも命がけの自然の厳しさを再実感しました。

⑦ 成城4丁目緑地の崖線の斜面林を観察していたら、思わず踏みそうになってしまいました。キラキラと反射する背中で気づいた、大和玉虫です。金属光沢のある背中は天敵の鳥を寄せつけず、人々には吉丁虫とも呼ばれる縁起の良い虫です。斜面林はボランティアの方々によって保護されていますが、雑木林の管理放棄は彼らの個体数の減少につながります。私も活動に参加しようと思う機会になりました。

⑧ 世田谷区保全樹林地に行くと、暗くなってきました。樹林地の前に猫が座っていました。体長50cm~60cmくらいでしょうか。ずんぐりとした体つきに、尾は10cm~20cmくらい。顔つきは猫というより少し犬に似ている?逃げていってしまいましたが、狸だと思いました。東京にいるんだと思いましたが、途中に狸の標識があったのを思い出しました。緑地や下水の土管の中に住んでいて、暗くなると出てくるのかもしれません。

⑨ 夏の暑さも気にすることなく仙川に鷲が一羽立っていました。そっと近づいてみると、全身白でくちばしが黒く体長50cm~60cmくらいで頭になんともかわいらしい冠羽が飛び出ていました。小鷲のようです。時折水面をつつくようなしぐさをして獲物を探しているようです。私に気づくと、はっ!!とびっくりした表情を見せてくれました。また別の日には青灰色の青鷲に遭遇しました。水草の中、じっと動かずに凛とした大きな姿は圧巻です。

⑩ 川沿いの遊歩道を南のほうへ下っていくと20羽くらいの軽鴨を見つけました。5羽ずつ家族同士で固まっているようでした。春には軽鴨が引っ越しをしますが、岸は切り立って高く雛は飛び込めません。どこから入ったのでしょう。この辺りは生活排水は下水道へ雨水は道路わきの側溝や雨水管を通って直接川へ流れています。大量に洗剤をつけての洗車や油を流すと川が汚れてしまうため、側溝は川の上流と考え行動していくことが必要です。

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