受賞作品一覧

信州安曇野散策マップ

優秀賞
宮原健太
長野県
松本秀峰中学教育学校
高校1年生
第30回 高校生の部

全体説明

2011年、12月30日。その日の夜、私は安曇野で白い息を吐きながら、望遠鏡を覗いていた。私の学校では、理科学習の一環で、習ったばかりの知識を使い、星雲の写真撮影を行う。写真ができた瞬間は得も言われぬ喜びがあり、初めて目にする星雲に私はすっかり心を奪われてしまった。翌朝明るくなると、昨夜とは違い、自然の美しさが目に跳びこんできた。済んだ空に力強く連ねる日本アルプスと、アサヒに照らされキラキラ光る雪をまとった木々。温かくなると、安曇野にはどのような生き物がいるのだろう。緑の生い茂る夏にもまた来たいと思った。1年半ほどたって、久しぶりに安曇野へ自然観察に出かけた。2011年の連続テレビ小説「おひさま」の舞台にもなっている安曇野には今年もたくさんの観光客が訪れていた。まずはドラマでロケ地となり、安曇野の特産品としても名高い“わさび”を作る農場から安曇野に生きる動植物たちの様子を届けたい。

観察ポイントごとの説明

  • ポイント1

大王わさび農場に入ってすぐ目にするのは、もちろんわさび畑です。わさびは透明度の高いきれいな水を必要とするため、多くの生物が集まり、翅の色が美しい瑠璃色をしたアオハダトンボや「キリコロロ」とさえずるカワラヒワなどが見られます。ここ、大王わさび農場は黒沢明監督が脚本をかいた「夢」という映画の舞台の一つでもあり、当時の映画と同じ、自然豊かな風景をそのままに守り続けているようです。

 

  • ポイント2

静かな道を通っていくと、東光寺が見えてきます。ここは、信州七福神の一つで、門前には「吉祥仁王様の下駄」と呼ばれる大きな下駄があり、この大下駄を履くと、願い事がかなうといわれています。中に入って松の木に目をやると、長野県ではお馴染みのエゾゼミやヒグラシが短い命を謳歌しようと、懸命に鳴いているのがわかります。松の木の下の方には抜け殻がたくさん付いていて、幼虫から成虫への変わりようも一目でわかります。

 

  • ポイント3

川沿いの道を通っていくと、御放田遊水地というため池のような場所が見えてきます。ここでコハクチョウやカワウをみたのは2年前の冬の朝だったのですが、水面にたくさんの鳥たちが飛来していて、特にコハクチョウは羽を広げると190cmと、とても大きく見えます。カワウは驚いたことに、飛ぶとき水面を何回も蹴らないと体を浮かせることができないようです。潜水をする分、体に筋肉がつき、体が重いのでしょうか。

  • ポイント4

あちこちにある、黄色が眩しいほどのひまわり畑を見ながらしばらく行くと、日本の唱歌として有名な早春賦の歌碑が刻まれる大きい岩が見えてきます。作詞した吉丸一昌氏はこの歌に安曇野の寒さを表現したようです。この歌碑の近くには顔の黒の横しまが特徴的なホオジロという鳥が見つかります。さえずりが「ピッピッピチュピチュチュリー」と、非常に独特なので、耳を傾ければすぐにわかります。

 

  • ポイント5

線路を渡って、入り組んだ道路を曲がっていくと「かじかの里」というカジカを養殖する広い公園があります。カジカは一見怖いように見えますが、きれいな水にしか住むことのできない白身のおいしい魚です。水辺には、水を求めてやってきた見た目が美しいミヤマカラスアゲハや、水辺のヨシ原で巣作りをするオオヨシキリを観察できます。オスは縄張りを意識し、「ギョギョシ ギョギョシ」と騒がしく鳴きます。

 

  • ポイント6

穂高川の方へと向かっていくと、河原に大きな木が見えます。木の上部には木屑がたくさんあり、サギがここを行き来することからして、これはサギの巣のようです。やはりサギの巣だけあってかなり大きく、近くまで行ってみるとたまたまアオサギが川の中で魚を取っている姿を見ることができました。器用にくちばしを使ってアオサギが食べているのは繁殖期にお腹の部分が赤くなるウグイという川魚のようでした。

 

  • ポイント7

早いスピードで、樹木や花のまわりをめまぐるしく飛び回る黒地に青いスジの入ったスポーティーな蝶に気を取られていると、まるで宮崎駿さんのアニメに出てきそうな形をした、碌山美術館が見えてきます。花の咲いている気には緑色をした鳥がかわいらしく鳴いている様子が見えます。これはメジロという鳥ですが、鳴き声が美しいウグイスと大きさ、形が似ていることからウグイスと誤認されることもしばしばあるようです。

 

  • ポイント8

穂高神社は全国的に有名で、日本で3番目に高い山として知られる奥穂高岳の山頂に祠を置いていることから、日本アルプスの守り神としても知られます。「ピーヒョロロ」とトビがうららかに鳴いている中、鳥居をくぐって中へ入ると巣の形がトックリ型とかなり珍しいコシアカツバメがスーッと飛び交っています。コシアカツバメはその名の通り、普通のツバメと違って腰がオレンジ色なのでよく見ていると以外と見分けがつきます。

 

  • ポイント9

少し山の方に登ると、烏川のほとりに林があります。ここは烏川渓谷、森林エリアといい、普段見られない動植物の宝庫です。虫好きの私にはたまらない場所でしたが、一般に穂高の高い場所に生息するミヤマクワガタや翅の模様が美しいオオムラサキ、樹液を求めてやってくるヨツボシオオキスイ、ヨツボシケシキスイも観察できます。1日中、ここにいても飽きないぐらいの昆虫がこの林にはいるのでしょう。

 

  • ポイント10

ここまでの観察路で何度か見てきましたが、実は安曇野には道祖神がたくさんあります。よく見るとその道祖神のある田んぼの中にタゲリという鳥を見つけることができます。警戒心が強いのか、近づこうとしたら飛び去ってしまいました。それらを見ながら進んでいくと、八面大王という怖そうな顔をした像のある足湯が見えてきます。足湯につかりながらウグイスの鳴き声を聞いていると、一気に疲れも吹き飛びます。